なぜ、ジョルジョから大量の大麻を購入したのか。そこで語られるのは、上の「いつ連絡が取れなくなるかわからない」から、さらに踏み込んだ答えです。 検察官「ジョルジョが売っている大麻は、あなたが言っているように品質がよかったわけですよね？」 被告人「はい。よかったです。はい」 検察官「あなたの生活が、貯金がなくても大量に欲しくなってしまうような大麻だったんですよね？」 被告人「まあ、でもそもそも、1回目買った時点で、あっ、どこか安心というか。はい」 検察官「安心というのはなんの安心なんですか？」 被告人「いやもう50gも買えば、ゆっくり大事にやれば、何カ月も保つので。はい」 検察官「で、先程言っていた不安な気持ちって何ですか？　安心と不安って矛盾してないですか？」 被告人「連絡取れなくなるのは、はい、多少不安でした」 検察官「最初買ったのがスカイウォーカーOGクッシュという話ですが、何ですかこのスカイウォーカーOGクッシュというのは？」 被告人「なんか袋に書いてありました。」 検察官「ブランド名ですか？」 被告人「ブランド名なのか、コードネームなのかはわからないです」 検察官「あなた大麻はいつくらいから使い始めたんですか？」 被告人「最初に接したのは、20歳くらいの頃です」 検察官「それまでスカイウォーカーOGクッシュとかブランド名のものって聞いたことはありますか？」 被告人「何回かはあります」 検察官「2回目買ったのは何ですか？」 被告人「2回目買ったのはサワーディーゼルです。」 検察官「サワーディーゼルの品質はどうでしたか？」 被告人「スカイウォーカーOGクッシュよりよかったです」 検察官「うん。その次に買ったのは何ですか？」 被告人「トリプルチーズです」 検察官「その品質はどうでした？」 被告人「またちょっとタイプが違う感じのヤツでした」 検察官「どう違うの？」 被告人「重いというか」 検察官「それはあなたにとって、それはいいものだったの？　よくなかったの？」 被告人「なるほどな。です（後略）」 　この後も柏原被告は大麻の銘柄を多数所持した理由、それを数g単位で小分けにした理由（主に自分が楽しむ上での品質管理と説明）など、延々と自身と大麻との親和性について赤裸々な言葉で語ります。そしてこの日、弁護人からの質問の終わりに被告はこう尋ねられます。 弁護人「弁護人の岩田から聞きますが、今ね、あなたのこれまでの話を聞いているとね、20年来くらい大麻に接してきたと。まあいい物をね、欲しくて大量に買っていたという話をしてるんだけどもね、結局それって、あなたが大麻との距離感というか親和性というか依存度というか、それが非常に高いということを供述していることになりますけど、それは認識していますね？」 被告人「んーですね。あの、はい」 弁護人「それがあなたにとって、大麻の所持という観点からね、不利なことだっていうのもわかりますよね？　依存度が高いということは」 被告人「あ、そうなんですか？」 弁護人「（笑）。まあ依存度が高いよりかは、低いほうがいいんじゃないですか？」 被告人「まあはい」 弁護人「そういう、あなたにとって不利な発言をしているという認識はあるわけね？」 被告人「あの、もう、でも、あの、はい、そうです」 弁護人「なぜ、逆にこういう不利な発言をしようと思ったのか、今ここでしているのはなぜですか？」 被告人「いや、全部この場では正直に言うのがアレなのかなというか大事なのかなと思いまして」 弁護人「本当のことだからということですね？」 被告人「はい」 　なぜ、みずから不利になるような大麻との親和性について包み隠さず話すのか。「正直に話すのが大事だから」と被告は言います。本当にそれだけが理由なのでしょうか。この裁判は、この後もまだまだ続きます。どのように展開し、どのような判決を下されるのでしょうか。 　　　　　　　＊＊＊ 　ここ何年かの間、日本国内でも大麻の大量所持での逮捕事件がしばしば報道されている。その際、被告たちは裁判の過程で営利目的の所持ではないと証明することに腐心することになる。入手経路を含め、被告には言えないこと、言いたくないこともあるだろう。今回と次回の2度に渡り紹介する柏原の裁判はその一例だ。次回では引き続き、この法廷の帰結について紹介したい。 ＜取材・文／斉藤総一　構成／山田文大　イラスト／西舘亜矢子＞自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す