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大麻大量所持者は「売ってない」を証明するために必死になる<薬物裁判556日傍聴記>

 かつて身に覚えのない薬物事案の容疑で家宅捜査を受けた斉藤総一さんは、そのガサ入れをきっかけに薬物裁判を556日傍聴し、そこで見た法廷劇の全文を書き取った。ここ3回は大麻の不法所持についての裁判の模様を紹介したが、今回は同じ大麻でも営利目的所持が疑われる裁判だ。  前回前々回の裁判はいずれも数g程度の所持だったが、今回は380gの所持。文字通り桁が違う量である。被告も自分が使用目的で大麻を所持したことについては認めている。この裁判のやり取りのなかでも語られるが、営利目的とは簡単に言えば、利益を得る目的で(今回の場合は大麻を)売ること。当然だが自己使用目的で所持する単純所持に比べ、営利目的の所持のほうが罪は重い。  被告が大量の大麻を所持したのは、人に売って金儲けをするためではなく、「好きだから」という。そして、反省の弁を口にしつつも、いくつものマリファナの銘柄の名を挙げ、それらはどれも「違うもの」だから持っている必要があったのだと話を展開する。その話は具体的で、入手先だという正体不明の外国人についての話に比べてもはるかに説得力がある。誤解を恐れずに言えば、アメリカ、カナダと合法化の波が世界に広がる中で、被告だけ一足先にその波に乗ってしまったような印象を受ける。    とはいえ、もちろんこれは甘い話ではない。繰り返しになるが、これまでに紹介した数g程度の大麻不法所持の裁判に比べて問われる罪は重く、裁判も長い。今回の裁判は二度に分けて紹介したい。

斉藤総一さん

※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。  最初に、今回の法廷を紹介するにあたって、本題となる営利目的の量刑についてここで触れておきます。営利目的の所持は、7年以下の懲役または200万円以下の罰金の併刑だそうで、やはり営利が認定されてしまうと重罪です。被告にとってこの法廷は、この重罪をいかに回避するかが焦点と言えそうです。  今回の裁判は、氏名や住所、職業などの本人確認をおこなう手続きについては非公開で行われた模様です。被告の名前は柏原孝介、40代男性。さっそく被告人質問に耳を傾けてみましょう。 裁判官「まずは被告人質問から行います。では被告人は証言台の前に来てください。そうしましたら、あなたから話を聞いていきますね。では弁護人からどうぞ」 弁護人「それでは弁護人の岩田の方から聞いていきますので、裁判官の方を向いて、僕の質問が終わってから答えるようにしてください」 被告人「はい」 弁護人「まずですね、確認なんですが、本件では大麻の営利目的所持ということで起訴されていると思うんですが、大麻の所持については、あなたは争いがないということで、よろしいですか?」 被告人「はい」 弁護人「ただ、営利目的ではないんだ。ということですね?」 被告人「はい。そうです」 弁護人「営利目的というのは、簡単に言えばですけど、売って利益を得る目的なんだけれども、これまでに大麻を売ったりだとか、そういうことはないですか?」 被告人「私腹を肥やすような、そういうやり取りはしたことがありません」 弁護人「うん。あなたの供述調書によるとね、20歳の頃に友人とか知人に、分けるというんですかね? そういうことをしたことがあるというのは、間違いないですか?」 被告人「その頃は、あのそうやってすることが、あの、その、23歳から28歳って書いてあるんですけれども、20歳から25歳に直してもらえたらって思っているんですけれども、その当時は、そうするのが当たり前というか、悪いという風に思っていなかったので、友達に分けたりとかしていました。はい。あの、はい、そうですね。はい」 弁護人「分けたりっていう、お話を今されているんですけれども、これは売ったっていう認識なんですか?」 被告人「ん? というか、分けたり譲ってあげたりというか、はい、もう、その当時は目分量で友達に渡していたんで、そういう売るというような感覚ではありません。売るという言葉は適当ではないと思います」 弁護人「あなたの認識では売ったという感覚はないと?」 被告人「はい」  まず被告人曰く、20~25歳の5年間、当時は悪いと思うことなく、大麻を目分量友人に分けたり譲ったり渡していた。前提としてこういった感覚が、今回の被告の主張の背景にあります。さらに具体的な話に踏み込んで行きましょう。 弁護人「(前略)。で、あなたが今回持っていた大麻の所持していた量について、ちょっとお聞きしたいんですけども、今回まあ約380g分位ですかね?」 被告人「はい」 弁護人「それを、所持していたということは間違いないですね?」 被告人「はい」 弁護人「これね、『はい』も僕の質問が終わってからにしてくださいね」 被告人「すみません。はい」 弁護人「で、その所持の目的というのは、全部自分で使用するためということですか?」 被告人「そうです」 弁護人「あなたの供述によると、まあ大体ですけれども、月に15g程の大麻を使用するということで間違いないですか?」 被告人「そうですね。あの、年齢と共に、若い時はもっとイクこともあったんですけども、今はもう、はい、そうですね」 弁護人「イク時というのは吸う時のことですか?」 被告人「はい」 弁護人「なるほど、ちなみに昔はどれ位吸っていたんですか? 月に」 被告人「いっても、まあ、20g、25gくらい、そんなんですかね」 弁護人「25gくらい?」 被告人「はい」 弁護人「仮に月に15gだとすると、380グラムは数年分位になってしまいますよね? 2年分位ですかね?」 被告人「はい」 弁護人「そうすると、2年分をまとめ買いするというのは、どういう理由があったんですかね? ごめんなさい。ちょっと聞き直しますね。2年分って、率直に言って自分で吸うには多い量じゃないですか?」 被告人「んまあ……そうですね」
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なぜ大麻を380gも持っていたのか
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※斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。 https://note.mu/so1saito/n/nc976576a6b29
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