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下ネタを話芸に昇華させる男、傷つくのは彼のアソコだけ――酔いどれスナック珍怪記

 客同士のコミュニティが前提のスナックにおいてキャストは客である――が筆者の持論。とはいえ、道化を演じることも営業トークを繰り出す必要もない。酒の“場”を温めるには、気の利いた下ネタの一つもあればいい。正しい下ネタトークの模範例を、とある中年男性客が示してくれた。

酔いどれスナック珍怪記 第四夜 飲み屋でくらい下ネタ話そうぜ!

 酒場に下ネタは付き物だ。  お酒が入れば誰しも多少オープンになるし、明け方などはお客もわたしも小難しい話なんてしたくはないし、できる脳の状態ではないのでだいたい下ネタしか話していない。おそらく一日に十回以上は、セックスだのチンコだのという下品な言葉を投げ付け合っている。そういう単語を口にすることに抵抗がなくなっている。困った。  この間来た二十二歳の素人童貞だという新規のお客が、自分はMだというので 「どんなプレイが好きなの? 彼女ができたらどんなことされたい?」  と訊いたら、それ自体が言葉攻めになってしまったようで、俯いた顔を真っ赤に染めて汗をだらだら掻き始めた。セックスという単語一つで恥ずかしくなっていた初心だった高校生時代を思い出し、慣れって怖いなぁ……などと思ったりした。  話は逸れたが、飲み屋にいる下ネタおじさんはだいたい二種類に分けられる。  自分のセックス武勇伝を延々と語る奴と、自分の話ではなく「好きな体位は?」とか「クリ派?中派?」とか女の子にしょうもない質問をしまくった挙句、「俺とセックスしてみる?」とか言う奴。実に馬鹿馬鹿しくてどちらも嫌いではないが、前者はだんだん聞いているのが怠くなるので後者の方が相手にしやすい。  しかし、ごく稀にこの二種類の枠に入らない下ネタおじさんというのが存在する。  過去のセックスを語るが決して武勇伝のような自慢気な雰囲気は漂わせない、官能小説の如くエロい単語を連発するがいやらしさを感じさせない、下ネタを一つの話芸の領域にまで昇華させているおじさんである。  川越さんは月に二、三度顔を出す常連客だ。仕事は雑誌の編集をやっている。  飲み屋界隈では皆から敬愛を込めて「風俗王」と呼ばれている彼は、ソープ、デリヘル、ピンサロ、オナクラ、テレクラ、SMとあらゆる風俗で遊び尽くし、現在は回春マッサージに至高の魅力を見いだしてしまったどうしようもない変態である。  仕事でも若干アダルトな内容を扱っているようなので、もはや趣味が仕事に役立っているのか仕事が趣味に役立っているのかわからない。人生を最大限エンジョイしているのは間違いないが、プロのお姉さんと遊び過ぎて技術の拙い素人に興味がなくなってしまい婚期を逃している。 「大変なことになった。俺のチンコは深刻な状況ですよ」  来店するや否や、まだ一口も酒を飲んでいないのに川越さんは言った。平常運転だ。 「どういう感じで深刻なの? また性病?」  自然とニヤついてしまう頬の筋肉をどうにか停止させながら訊くと、彼はたいして深刻そうでもない真顔で訥々と語り始めた。
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回春マッサージ嬢から店外デートに誘われて
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