更新日:2019年12月30日 02:41
エンタメ

<純烈物語>「NHKホールでやるのが夢というよりも、NHKホールを特別な場にする」<第7回>

「緊張しすぎて俺は今、猛烈に……おしっこがしたい!」

 6月12日15時……NHKホールの緞帳が上がると、生バンドの頭上には長方形の白いスクリーンが吊るされていた。同時に流れてきたのは『孤独のグルメ』のモノローグ曲。映像の中の酒井はどうやら会場入りしたところのようだ。この時点で軽い笑いが起きる。  坂井の描くマッスルの世界観は、何かしらをモチーフとしたネタが多く、それを知る者がクスッとなれるように仕立てられている。井之頭五郎よろしく、モノローグで語る酒井の顔が徐々にもじもじしてきた。 「今日は俺たち純烈にとって長年の目標だったNHKホールで初めての単独コンサートの日だ。当然、NHKの関係者もたくさん見にきてくれるだろう。そう、純烈2度目の紅白出場は今日のコンサートの出来にすべてが懸かっている。あー、緊張する。緊張しすぎて俺は今、猛烈に(まんま五郎ちゃん)……おしっこがしたい!」 「ポン♪」「ポン♪」「ポン♪」の効果音とともに、顔面ドアップから全身、そしてロングショットで尿意を我慢する酒井に早くも場内は爆笑。やっぱり日本人はベタが好きなのだ。  そこへ小田井涼平が現れると、同じように緊張のあまりアレを我慢しているという。内股で股間を押さえながら2人が急いだのは楽屋だった。 「なぜ大のオトナ2人が、こんなにおしっこを我慢しているか説明しよう。ここNHKホールには大小7つの楽屋がある。今日の純烈の楽屋は、普段なら北島三郎さんクラスの大御所や、紅白の司会者しか使えないメイン楽屋。言うなればそこはすべての芸能人が目指すゴール。  そしてそのメイン楽屋にはほかの楽屋との決定的な違いがある。それは……楽屋内にトイレがあることだ。数々の伝説のスターたちが使ったトイレで華々しく用を足すことは、俺たち純烈結成以来の夢であり、目標だったのだ」  ド頭から、まさかのNHKにおけるしょんべんネタ。笑い転げるマダムもいれば、呆気にとられるお婆ちゃん。そしてメガネをかけた真面目そうな二十代のお姉さんの顔には「ここでそんなネタをやって大丈夫なの!?」と書いてある。  ところが、楽屋の中へ入るとすでに白川と後上翔太がいて、トイレの前でもじもじしている。どうやら誰かが先に入っているらしい。 「なあ、誰が入ってんだよ!」(酒井) 「山本さん? あの人長いから」(小田井)  しれっと自分のところのマネジャー・山本浩光の体質に関する個人情報をさらす。言うまでもなく、このセリフを考えているのは坂井だ。 「メイン楽屋にしかトイレがないことは、一圭さんから聞いていて、それをもとにネットでいろいろ調べるうちに思いつきました。あれぐらいくだらないものにしないと、現実におけるシリアスな部分も生きない。入り口と出口を最高にバカバカしくして、純烈のリアルな部分を描きたかったんです」(坂井)  トイレの水が流される音が得体の知れぬ開放感とともに聞こえると、中から出てきたのは鶴見亜門。なんでも「本日付けで新たに純烈の統括マネジャーに就任しました」とのことで、今後の活動すべてのマネジメントを牛耳るというのだ。  もうこの時点でメチャクチャであり、アフロヘアをしたメガネのおっさんに純烈が振り回されるのは容易に予想できた。ニヤニヤする者と、この時点ではまだ「どこまでが本当なの?」と戸惑うオーディエンスが混在する中、亜門は非情なる宣告をメンバーに下す。 「酒井さん、小田井さん、今日の純烈NHKホール公演、このステージにあなたたち2人の出番はありません! 今の純烈に足りないもの……それは、若さです! よっておまえらのような老いぼれ2人は解雇! そして純烈は新生純烈として生まれ変わるために、新たなメンバーを2人迎え入れます!」(つづく) 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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