エンタメ

<純烈物語>進むべく道に導いてくれた巨匠たち<第5回>

前川清(左)と酒井一圭

「白と黒とハッピー~純烈物語」第5回

可愛げが導く先人たちとの縁(えにし) 純烈という名の磁場がそこに――  これまでの連載の中で、純烈はファンだけでなく業界関係者や周囲の人たちに愛されていることに気づいたと思われる。「そんなのは売れていたら当たり前だろ」という声もあがるだろうが、無名で“うま味”のなかった頃から支えてくれる先人たちがいたから、現在がある。  その筆頭となるのは言うまでもなく前川清。酒井一圭の夢の中へ何度となくノーギャラで出演し、その後の進むべき道を遠隔操作のように指南した。  ムード歌謡には馴染みがない人にも、四十~五十代ならばドリフターズと一緒にギャグをやっている前川がメモリーされており、とっつきやすいイメージがある。とはいえ大御所はやはり大御所。触れれば触れるほどに純烈のメンバーたちはその偉大さを噛み締め「俺たちはまだまだだな」と襟を正す。  先輩たちが世に出した作品を継承することで、純烈をやっていこうと決意した酒井は、その思いを前川に伝えた。ほかの歌い手と同じように手放しで喜んでくれると思いきや、鋭いナイフのような答えが返ってきた。 「一圭、おまえの姿勢は俺も嬉しいよ。ただな、今はムード歌謡の中で抜きん出ることはできないからな」 「どうしてですか?」 「本人たちがまだ生きているからだよ。本家がいる限り、それを超えることはできねえんだ。だから、もうこの世にいない人の唄を歌ってみろ。おまえらが『そして神戸』を歌ってもな、俺はまだ生きてっからよ」  そこまで言ってくれるのか――死んだ人の唄を歌えなど不謹慎なことを言っているようだが、前川は同じ世界で生き抜いてきた他の歌い手たちをリスペクトして言っている。その上で同じ土俵へ乗ってきた後輩たちに、今なお現役プレイヤーであるプライドをチラつかせたのだ。  友井雄亮のスキャンダルに関する謝罪会見で世間と向かい合った直後、純烈は前川の50周年記念公演(1月24日~2月4日、明治座)へ出演した。連日、稽古場にマスコミが押し寄せる中で酒井は気まずい思いから「なんであんなことをやらかした僕らを切らずに出してくれたんですか?」と聞いた。  すると前川は、涼しい顔で「なんでって、人は不幸が大好きだから純烈が出ることでチケットが売れるからだよ。儲かるのがわかっていて、出さない方がおかしいだろ」と言った。半分本心で、あとの半分は思いやりなんだと酒井はこみあげてくるものをこらえた。  公演が終わったあとも、番組の収録で顔を合わせると「純烈、儲かってるなあ」が挨拶代わりの言葉。酒井も「儲かっていないですけど、前川さんのおかげで大損にはならずに済んでいます。ありがとうございます」と可愛げのある返しをすると、ニヤリと笑って続けた。 「一圭、明治座は面白かったよなあ。そりゃあいろいろ大変なこともあったけど、なかなか経験できないことをやれて俺も楽しかったんだよ。それでそのあと御園座でやったんだけど、お客さんが全然来なくてさ。だからまた一緒にやってくれよ。それでよかったら……また事件起こしてくれよな」  世間の目が届かぬパーソナルなやりとりの中でも、前川は純烈をいじった。それはつまり、公の場であろうとなかろうと「おまえたちとの関係や距離感は変わらないよ」ということである。  事実、50周年公演の舞台でもスキャンダルをネタにし、観客をドッと沸かせた。笑うことさえ許されぬような閉塞感と重圧が続く日々の中で忘れかけていた人肌のぬくもりによって、純烈は救われた。 「俺たち、みんなが笑ってくれるようなことをやってもいいんだ――と。いろんな大御所さんがいる中で、僕らは芸能界で一番ラッキーな方に救ってもらえたと思います。それは芸人さん、俳優さん、タレントさん、歌手とオールジャンルの中でベストでした。そこはね、前川さんの懐の深さですよ」  それにしても、一度も会ったことがなかった前川清が何度も夢に出てきたのはなぜだったのか。酒井いわく、それは妄想力によるものだという。
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「会いたいと思う人が夢に出てくるんです、次は……」
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