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松戸、市川、船橋。千葉県民に愛された三郷南ICの老舗ラブホは今…/文筆家・古谷経衡

 しかし、心配していた内装の古さは全く感じさせない。おそらくここ数年でリニューアルしたのであろう(もっとも、昨今のラブホはリニューアルして近代化しないと客が入らないのだが)、申し分ない奇麗さで、首都圏辺境にあるクルマのまま個室にチェックインすと、やおらフロントのある小屋からオバサンが前払い宿泊代を徴収しに来る…。なんて野暮なことはない。クレジットカードが使える最新鋭の室内精算機が完備されている。うむ。及第点以上だ。

浴室も近代化されており、浴室用TVもある

アジアンリゾート、とな?

 しかしながら不思議なのは、同物件のガイダンス。「ビーチの喧騒をよそに、熱帯雨林の森に人知れず佇むアジアンリゾート」と謳い文句があるが、三郷市は内陸自治体でビーチは無く、物件敷地内にはヤシの植木が数鉢。他に熱帯雨林をモチーフにしたものは見当たらない。辛うじて入口にタイ風(?)の仏像(或いは観音像か?)があるだけで、今はやりの「アジアンリゾート」とは正直程遠い。だが、別段筆者は「独りラブホテル」に「ビーチの喧騒をよそに」とか「熱帯雨林の森にたたずむ」だのを求めていないから、これは減点対象にはならぬ。  さて、つかの間の惰眠をむさぼってからチェックアウトした筆者は、この物件の真の醍醐味に気がつく。チェックイン時は暗闇で見えなかった、敷地内にそびえる巨大鉄塔の看板こそが、このホテルの歴史の分厚さを物語っていたのだ。思わず激写する。

歴史の生き証人、パサールの鉄塔。右にタイ風(?)の仏像或いは観音像

 チェックイン時にこの鉄塔看板の存在に気がつかなかったのだから、電飾文字は消灯して久しいのか。しかし、この高さの鉄塔看板をわざわざ設置するのは、まさにこの地が外環の南端であったころ、三郷南ICから降りたクルマのアベックの目線に訴求するためのアド・バルーンであったに違いない(事実、電飾版の方向が三郷南ICを向いている)。  外環東部の完成と共に、必然三郷南で下車するクルマが減ったことから、この看板の点灯は不要だとでも考えたのだろうか。或いは単なる故障か。昼間みあげると、この鉄塔が相当の風雨に耐えてきた歴史的質感が明瞭となる。唯一言えることは、2018年6月2日まで、このホテルは外環の最も南端に位置する「夢の宴」として君臨し続けていたという事実である。  外環千葉区間開通は、確かに前掲した通り、東葛3市のマイカー族に至極快適な利便性を提供した。しかしその一方で、それまで外環南端としての地位をほしいままにしてきた三郷南IC周辺に点在するラブホテルには逆風となった。人々はこの地を通過して、東関道に出、浦安方面の洒落たラブホテルにインする道を選ぶかもしれない。実際、外環東部が完成してから、多くの車両は三郷南ではなく一歩手前の三郷西ICで降車するか、或いは三郷南ICは素通りして湾岸方面に向かっている節が見られる。  だが私は、「独りラブホ」を極め、「独りラブホ」行為を愛するものとして、この鉄塔が遠目にも煌々と輝くその時を夢想して、再びこの物件を訪れたいと思う。 ●ラブホテルQ&A Q 10月1日から消費税率が10%になりましたが、ラブホテルの料金は軽減税率の対象ですか?(宮城県、40代、男性) A はい。ラブホテルは私たちの日常生活に必要不可欠のものですから、当然軽減税率の対象であります…といいたいところですが、愚昧なる連立政府は、事もあろうにラブホテルに軽減税率を適用しないという盲動に出たのである。従って、利用料金にはもれなく10%の消費税が加算されるのである。本当に腹立たしい事でありますが、私たちは消費増税に負けず、どんどんラブホテルを利用しましょう!
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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