更新日:2023年03月21日 16:05
恋愛・結婚

ラブホの絶滅危惧アイテム“オーロラバス”を渋谷・円山町で堪能/文筆家・古谷経衡

独りラブホ考現学/第12回

レインボージャグジー健在なり。ホテル”LALA”

ラブホ三種の神器とは……

 日本人の風呂へのこだわりというのは、諸外国から見ても強烈で特徴のあるものであるといえる。日本以外の高級ホテルでは、バスタブ無し、シャワー室のみある、というものがザラである。逆に日本のホテルは、どんなに安普請でもユニットバスという形式でバスタブの面積だけはしっかりと確保されており、「シャワー室のみ」というのはあり得ない。ここに日本人の国民性の特有さとユニークさを感じる。  かつて、ラブホテル三種の神器というものがあった。それは1)回転ベッド、2)レインボージャグジー(オーロラバス、レインボーバスとも)、3)天井鏡面(天井が鏡張りになっているもの)の三つで、この三つが完備されているのがラブホテルであり、おおむね1990年代初頭まで、ラブホテルとはこの三つが完備されているものを指した、といっても過言ではなかった。  しかし経済の全般的低迷に伴うラブホテル業界のシュリンク(収縮)により、この三種の神器はラブホテルには必ずしも必要ではなくなっていった。特に1)回転ベッドは、一度故障するとその修理・メンテナンス費用が損益分岐点を上回ることから、続々と「普通の」ベッドに入れ替えられていった。もはや令和の時代、回転ベッドが現存するラブホテルを探すほうが至難の業というものである。  そして三番目の天井鏡面というのも、よくよく考えれば何の意味があるのかわからないので、次々とラブホから撤去されていった。なぜ天井鏡面が廃れたのか。諸説あるが、男女の情交の姿を天井に映し出すことによって更に「燃える」という理屈が陳腐化したことである。よく考えてみれば自分自身の情交を自分自身が天井の鏡で見ることによってより快感が増すという科学的データは発見されていない。だから、現在、天井鏡面があるラブホもほぼ絶滅危惧種となった。  しかし二番目の、レインボージャグジー(オーロラバス、レインボーバスとも)だけは、かろうじて頑なに生き残っているのだ。つまるところレインボージャグジーとは、浴槽内下部の照明に偏光フィルターをあてがうことによって、浴槽内があたかも七色の光で自在に赤や青やグリーンに変色するというもの。  しかし、これですら現在絶滅危惧種にある。なぜか。それは、わざわざ浴槽内下部にある光源に偏光フィルターを導入しなくとも、浴槽内に入れる多種多様な入浴剤で以て温水の色が変わるからであり、本連載#11で説明しているように、浴槽を改造しなくとも、実に安価で簡便な方法で浴槽内の水の色を変えることができるサービス(入浴剤ビュッフェ)が導入されたからだ。  だからわざわざレインボージャグジーを導入するラブホはいなくなり、現在稼働中のホテルは、浴槽内のレインボージャグジー設備が故障なく動いている場合に限られると思われる。

貴重なレインボージャグジー体験

 そんな「七色」のレインボージャグジーを堅守しているラブホがある。都下有数のラブホ地帯、渋谷円山町にあるホテル「LALA」。実は筆者は、レインボージャグジーに関係なくこの「LALA」をある時期定宿にしていた。なぜか。それは、フロントにて無料でノートパソコンのレンタルサービスがあったためであった。  OSがWindowsXPという、破滅的に旧型のものであったが、最低限のワードやメールの確認に重宝したからである。だから筆者は、渋谷で酔いつぶれると、何も持たずにこの『LALA』に宿をとり、レンタルパソコンを片手に原稿を作った事がよくあった。  しかしある時期を境に、『LALA』からレンタルパソコンサービスは消えた。昨年(2018年)、その理由をフロントまで問いただすと「(ノートパソコンを)壊す人がいる(のでサービスを中止した)」とのこと。残念だが時代の流れか。致し方ない。
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『LALA』のレインボージャクジーは目を見張る
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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