更新日:2019年11月14日 11:57
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「発達障害を隠さずに働きたい」30代女性が絶望した、企業側の理解のなさ

発達障害のことを伏せて面接をスタート

 そして、発達障害のことを伏せたまま働く「クローズ就労」として面接を開始。このクローズ就労の履歴書作成や面接対策も支援所スタッフの手厚いフォローがあった。クローズ就労を前提に2社娯楽施設を受けると2社とも内定が出た。そして、わりかし髪色や服装の規則が柔軟な方の職場に就労することにした。さっそくこの取材の翌週から働くという。 「通所中の利用者の人とも話したのですが、障害者雇用枠で働きたい精神障害のある方と、企業側の需要とがまったく合っていません。それに、企業側が障害者を一括りにしている傾向もあって『障害者なら接客はできないね。じゃあ掃除のみお願いします』という対応のところもありました。精神障害や発達障害について人事がきちんと理解しているとは言い難いです」  田中さんは支援所の利用者に「クローズ就労が決まった」と言うと「クローズでいいの!?」と驚かれたという。それほど障害者雇用枠にこだわる人が多いのだ。彼女の場合、早々に障害者雇用枠での就労を切り捨て、通所から3ヶ月で就職できたが(かなり早い方だという)、その切り捨てをできずに就活を続けている利用者も多い。 「すぐに就職口が見つかるわけではないし、すべて自分の希望通りの就労とはなりませんでしたが、就労移行支援事業所に通ったことは結果的によかったと思っています。今までは睡眠リズムが乱れていて朝起きられずに仕事を当日欠勤することもありましたが、週5で支援所に通うことで朝早く起きる習慣が身につきました。  一度だけ風邪で休みましたが、無断欠席ではなく欠席の電話を入れたので、起きられてはいたんです。風邪で休んだ1日を除けば無遅刻無欠席です。だから、就活の面接の際も『朝の時間帯のシフトでも入れます』と、堂々と言うことができました」  田中さんは、通所希望している人の中には「就労移行支援事業所へ通う=障害者雇用として必ず働ける」と信じている人が多いと実感したと語った。しかし、実際は企業側の受け入れ体制が取れていない現実を見た。

それでも「働きたい」理由

 ひとつ疑問に思ったのは、彼女は既婚者で障害年金も受給しているので、夫の収入が多いわけではないが、専業主婦になるという手もある。それを選択せず働きたいのはなぜなのか。 「通所当初、グループワークで『働くことはどういうことだと思いますか?』というお題が出て、私はそれに『働くことは生きることだと思います』と答えました。でも、さまざまなワークを受けているうちに考え方が変わっていきました。会社への貢献のために働きたいと言う人もいますが、私は普段お世話になっている人とか、仲のいい友人たちの貢献のために働きたいんです。  今年は夫の誕生日の時期に無職だったのでプレゼントを買えなかったし、友人に遊びに誘われても『今ちょっとお金が苦しくて』と断らないといけないのもつらかったです。  あともう一つは、社会的地位です。私の実家は機能不全家庭だったので、家族での会話がほとんどありませんでした。それがおかしいと気づいたのはだいぶ成長してからです。だから、自分が専業主婦になって家にずっといることに耐えられないと思うんです。外に出て人と接したい。それに、私は多趣味なので、自分のお金で自分の好きなことをしたいんです」  田中さんはクローズ就労が決まったが、これで終了というわけではない。今後も半年間は定期的に就労移行支援事業所で面談を行いフォローしてもらう。何かのきっかけでオープン就労になったとしても、定着支援を受けていることを企業側に伝えられれば、支援所側が企業訪問を行うことも可能なのだ。  2021年にはさらに法定雇用率の引き上げが予定されている。それまでに企業側が一体どこまで受け入れ体制を整えられるのか。今、支援者側は最大限にフォローを行っている。今後は企業側がニューロ・ダイバーシティ(人の脳にはすべて違いがあり、強みも持っているという多様性を元にした考え方)の理解の促進に努めてほしい。 <取材・文/姫野桂>
フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ、。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)、『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)『生きづらさにまみれて」(晶文社)、『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)
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