更新日:2023年05月07日 13:59
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「まっとうな保守」だった中曽根康弘元首相の死/古谷経衡

韓国、中国をはじめアジア外交を重視。歴史的事実と向き合う

 一方、中曽根は当時中国の胡耀邦総書記と親密な関係を築き、日中友好に邁進。「対中ODAは戦争賠償である」旨明言した。’85年に中曽根が靖国神社を参拝すると、中韓から批判が上がったが、2回目以降は取りやめた。閣僚の「日韓併合は韓国側にも責任がある」という歴史修正主義全開の発言が月刊誌に載るや、即大臣を罷免するなど、アジア諸国との友好関係構築は中曽根政権の基軸であり、歴史的に評価されるべきだ。今の「自称保守」が見たらその姿勢は大方「反日パヨク」に映るだろう。  総理辞職後は竹下登に政権を禅譲し、いち国会議員として自民党のご意見番となる。が、小泉政権下で「定年制」が導入されると党は中曽根を非公認とする方針を打ち出し、中曽根はついに政界から身を引いた。その後、従前からの理想であった憲法改正草案などの起草に携わるが、現在でも日本国憲法は一文字も改定されていない。  中曽根を単なる復古主義者の右翼、と見るのは簡単なことである。が、戦場の地獄から生還した士官として、歴史的事実から目を背けることはしなかった。特に、先の大戦期に日本が近隣国に与えた被害については真剣に向き合っていた。現在の自民党で、これほど「まっとうな保守」の政治家がいるかどうか、筆者は疑問である。
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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