ライフ

夜のスナックで働くわたしが得たもの、失ったもの…

正月の清々しい気分から一転…

 そんな風に思っていたくせに、こと自分の身になると、わたしはアリエルでいたいのだと気付かされる。何も失いたくない。夜はお客さんたちと飲んではしゃいで乱痴気騒ぎをしたいし、昼間は友達と焼き肉ランチして美術館に行って煙草の吸える喫茶店で四季折々のクズ男についてぐたぐた話したい。プライドと自尊心と肝臓の健康はもう捨てたから、それくらいで勘弁してほしい。身勝手極まりない。夜の世界だけで完結している人間になりたくないと思いつつも、夜にしか生きられない気もしている。  数日前、新年の初出勤をした。  それまで実家で本を読んだり、すっかり冬枯れした山を眺めたり、初詣前の静まり返った神社の薄暗がりを眺めたりして、やっぱりこういう異界がすぐそばにあるような土地で暮らしてぇなんて感傷に浸っていたので切り替えが難しく思われたが、酒を呑んでしまえばなんてことはなかった。刺激のない田舎で生きてられるかバカヤロウ。  都会の喧騒、下品な繁華街、酒がなくちゃ生きられねぇと思いながら、見慣れた酔っぱらいたちと新年早々チンコだのマンコだの最低な話をしていた。飲み屋とはかくも心地良く、人間は矛盾と葛藤に満ちている。 「今年もよろしくね」なんて言ってグラスを交わすと、そういう縁にしみじみと喜びを感じるし、今年はどんな馬鹿馬鹿しくも面白いことがこの酒場で巻き起こるのだろうと期待に胸が膨らむ。ついでにおっぱいも膨らんでほしい。  いずれにしても、今目の前にある縁を大事にして、酒を変わらぬ友として、マイペースに夜を生きていこうと決意を新たにしたのでありました。そういうわけで、読んでも何一つ得にならないこの連載に、本年も何卒宜しくお付き合い頂ければ幸いです。素面です。〈イラスト/粒アンコ〉
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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