それぞれが「自分のため」に書いて歌う
自分のために作ったものが、誰かを救ってしまう不思議
ましのみ:私は逆で、歳を重ねるごとに辛いことが増えて、どんどん閉塞感を感じているんですよ。子供の頃は、何も気にせず色んなことにチャレンジできていた。でも、だんだんと周りの目も気になってくるし、失敗も怖くなってくるし、挫折も経験して現実もわかってくる。
どんどん消極的になって、自分の中に引きこもるようになってしまった。そういう時期に、ちょうどこの作品を読んだんです。不幸の中にも楽しいことを探してみる爪さんの考え方に目から鱗だったし、なんだかすごく勇気をもらえた。曲を作ったいま、ちょっとだけ「まあいいか」って言える自分になりつつある。
爪:それはありがたい話ですね。
ましのみ:そういう人多いと思いますよ。映画とかドラマとかを見ても、それがあまりに清らかな作品だと、どこか他人事のストーリーのように感じてしまうような人。そういう不完全で「ろくでもない」人間に寄り添ってくれるのがこの小説だと思いました。
爪:僕、ずっとこの作品を読んだ人から「救われました」と言われることが不思議だったんですよ。だって、これは僕が僕のために書いたものだから。誰にも弱い自分をさらけ出すことのできない自分が、過去の辛かったことを誰かに聞いてほしくて書き始めた。そしたら、逆に僕が人生相談を受ける機会が増えてしまった。
でも、今回主題歌を聴いたときに、その謎がちょっと解明されたような気がした。音楽家って、自分のために音楽を作る人たちだと思っているんですけど、そんな音楽家の作った音楽で僕はすごく嬉しくて、どこか救われたような気がしたんです。
ましのみ:たしかに、私もこの曲は、もちろん爪さんの考え方を理解するためにたくさん時間を割いたけど、結局は自分のために作ったんですよね。
爪さんの言葉を咀嚼して、自分の言葉で吐き出すことを繰り返した。たとえば、「泥臭くって美しいとか 高みの見物されたってなあ」という歌詞がありますが、あれも最初は紙に「泥臭くて美しい」って書いていたんです。でも、書いた言葉を読み返したときに、こういうこと言われるのが一番ムカつくんだよなって気づいた。
あれは、だから曲全部が、自分の気持ちなんですよね。
爪:うん、その簡単に「わかる!」って言ってくれない感じが、また僕がこの主題歌に感動した理由のひとつなんだと思います。もちろん僕は特別な想いをもって聴いているけど、きっと他にも多くいる「ろくでもない僕」たちのような人に寄り添ってくれる曲だと確信しています。ましのみさんだって……ろくでもない恋してきてそうですもんね。
ましのみ:ろくでもない恋ばかりですよ! おまけに、私は爪さんみたいに消化しきれていないから、まだまだ子供ですね。でも、今回曲を作ることで、爪さんのいい成分を吸収して、ちょっとだけ余裕のある自分になれた気がする。
爪:僕も作品を作ることで、自分のことがより理解できて成長した気はします。でも、アスカの立場から、僕のことをこれだけ理解しようとしてくれたのは、初めての体験でしたね。
ましのみ:爪さんの頭の中を理解しようとするのは、新鮮な気づきがたくさんあって面白かったですよ。まあ、もし私が付き合っている人が隠れて風俗に行っていたら、絶対に嫌ですけどね!
爪切男が悲劇的な半生をユーモアたっぷりに綴った実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社文庫)。賀来賢人主演でドラマ化され、現在MBSで毎週日曜日、TBSで毎週火曜日に放送中
ドラマ『死にたい夜にかぎって』のOP主題歌「7」が収録される、ましのみの1st Mini Album『つらなってODORIVA』(ポニーキャニオン)が3月18日リリース。初回限定盤はCD+DVDは2727円(税別)、 CDのみの通常盤は1818円(税別)
●爪切男 ‘79年、香川県生まれ。文筆家。’16年より 、「日刊SPA!」 で「タクシー×ハンター」を連載。同連載を大幅に加筆修正してまとめた私小説『死にたい夜に かぎって』を’18年に出版。’19年に文庫化、現在ドラマが放送中。SPA!本誌では「働きアリに花束を」を連載。犬が好き。特にパグ
●ましのみ ‘97年、千葉県生まれ。シンガーソングライター。’18年、ポニーキャニオンよりメジャーデビュー。ドラマ『死にたい夜にかぎって』のOP主題曲「7」収録の1st Mini Album『つらなってODORIVA』が3月18日発売(初回盤のDVDには今回の対談映像も収録)。ワンマンライブ「ODORIVA」が5月13日(水)大阪 アメリカ村BEYONDにて、5月20日(水)東京 shibuya WWW Xにて開催。ライブではステージドリンクに2リットルのペットボトルの水を常備しているのがトレードマーク
取材・文/園田もなか 撮影/杉原洋平