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スナックで10倍好かれる「かわいいおじさん」その立ち回り方

スナックで飲む必要…ある?

 対照的に、竹田くんという若者がいる。  ゴミちゃんと同じように彼にもまた飲み仲間が多い。  彼は来店するとまずスマホを手にして仲間に連絡を取る。自分の居場所を知らせるためだ。一時間も経たないうちに一人、二人と彼の飲み仲間がやってくる。集まった仲間たちはそこそこにカラオケを歌いつつ、内輪話で盛り上がる。他の常連客たちとのコミュニケーションはあまり取ろうとしない。  わたしは特別この飲み方を批判するつもりはない。人がたくさん来るのはお店にとっては有難いことだし、お客さんがどういう飲み方をしようと、目に余るものでない限りは金を払っている限りは自由だ。年配の常連が多く居る空間は肩身が狭いのだろうし、それが彼らなりの居心地の良さの作り方なのだろうとも思う。だけども、そういう常連たちと交流をしてこそのスナックであるような気もするし、彼らを眺めているとつい思わざるを得ないのだ。ぶっちゃけ、うちの店である必要性があるんだろうか?と。 「○○に集合~」と声を掛けて集まり、顔見知りの内輪だけで盛り上がって飲むのならば、磯丸で飲んでたって、公園で飲んでたって、宅飲みだって変わらないんじゃないか?と。  スナックに一人でやってくる常連客というのは、その店に何かを求めてやってくる場合が多い。店の雰囲気だったり、マスターに聞いてもらいたい切実な話があったり、マスターの料理が食べたかったり、マスターに会いたくてたまらなかったり、奇特な人は極稀にわたしの顔を見たかったり、担当編集者のイケダツなんかはわたしの原稿の尻叩きに来てくれたり。誰もが漠然と、だけど「この店に」という想いがある。そういう想いが嬉しいから、こちらも応える気持ちになる。だけど、どこでも良いんじゃないの? みたいな飲み方を目にすると、人情が薄くて性格の悪いわたしは「それなり」の気持ちでしか相対することができなくなる(人類愛に溢れたマスターはそんなことありません。誰にでも慈愛に満ちています)。    スナックでの正しい飲み方なんてわからないし、多分ない。  けれども、クサい言い方をすれば人間交差点ともいえる空間で、ゴミちゃんのように、名前も知らない人とただただ共に酔うことを楽しんでいる人の姿を眺めていると、「ああ。スナックだなぁ」と、この古臭くて猥雑なスナックという場が、どうしようもなく愛おしくなるのである。<イラスト/粒アンコ>
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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