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スナックで10倍好かれる「かわいいおじさん」その立ち回り方

居心地の良さは自分で作れる

 ゴミちゃんは色んなスナックを飲み歩くから、あちこちに飲み仲間がいる。  仲間内では、誰がどこで飲んでいるとか、どこそこの店に行こうとか連絡ツールを使って知らせ合っていることもあるみたいだけど、彼が面白いし凄いなと思うのは、それに囚われないところなのだ。誰がどこで飲んでいようと彼にはあまり関係がない。その日、自分が行きたいと思った店へ行って、偶然その場に居合わせた人々と楽しく盛り上がって飲む。  スナックという他者とコミュニケーションを取るのが前提の空間では、自分にとって居心地の良い日と悪い日というのは通っているうちに少なからず出てくる。顔見知りの仲間が飲んでいる日は心地良いし、大御所の常連ばかりの日や二次会サラリーマン団体が盛り上がっている日はいまいち落ち着かないだろう。だから、仲間が飲んでいる場所に行けばアウェー感を味わうことはない。だけどゴミちゃんはそれをしない。その日隣に座った人に、様子を見ながらまず話し掛ける。それが気難しい元物理学者でも、鼻につく若者でも、荒れ狂う中年女性でも、まだエンジンの掛かっていない御神岩の田中(第七夜参照)でも。 「ど~も~」「お父さん飲んでますね~」「その曲良いっすね~」。微妙に悪い活舌で、人の好さそうな笑みを向けられた相手は、思わず皆肩の力が抜けてしまう。本当はゴミちゃんにだって苦手な人がいることは知っている。実はギャーギャーと騒がしい日よりも程よくまったりした日が好きなことも。それでも雰囲気に合わせて話しかける。別にたいした話をするわけではない。次の日には忘れてしまうような、だけど何となく楽しかったという感覚だけが残るような他愛のない話だが、それによって相手のゴミちゃんに対する認識が「よく知らない奴」から「自分に害を与えない奴」へ変わる。そうやって、相手の居心地を良くすることによって、自らの居心地の良い空間をも作り上げてしまうのだ。  だから、ゴミちゃんが来ている日は不思議と皆楽しそうな雰囲気になる。腹を振りながらスタンディングで歌ったり、歌の途中で鼾をかいて寝落ちする彼を見て誰もが笑う。  当たり前の光景になって見過ごしているが、改めて彼を眺めていると誰よりも一期一会という特徴を生かした「スナックの楽しみ方」を熟知しているように思えてくる。
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スナックで飲む必要…ある?
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