エンタメ

スナックで10倍好かれる「かわいいおじさん」その立ち回り方

第二十五夜 汝、隣人を愛せよ

 地下へ入ってしまえば時間はもうわからない。  店までの道すがらに空を見上げて湧いてくる、まだ明るいのに酒を飲むなんて、という罪悪感にも似た気持ちも、薄暗い店内で一口飲めば消え失せた。  自粛要請に従った営業もひと月近く経つと慣れてきて、カウンター越しの風景は以前と変わらぬもとの日常であるかのように見える。二十二時までの営業が許されるようになって、近場に住むお客さんだけでなく、少し離れた東京近郊に住むお客さんもぽつぽつと顔を見せるようになった。  ゴミちゃんにも久しぶりに会った。第十一夜でちょこっと登場した、時間とお金の使い方がヘタクソなゴミちゃんだ。閉める一時間前くらいにやってきて慌てたように酒を流し込み、こちらが会計を出す頃にはまだ飲み足りなそうな顔をしているあたり相変わらずというか、もう少し早く来れば良いのにとか思ったりもしたが、一ヵ月以上ぶりに見る彼のビリケンさんのようなフォルムに妙に安心感を覚えた(カウンターにデカめの人が座っているとホッとするのは何故だろう)。 「ゆっき~がいると飲みに来ちゃうよ~」  ファービー人形のようなくりくりの目に半分瞼を落としながらも、わたしのような粗野で不作法な女にそんなことを言ってくれるありがたい存在の彼にはひとつ信条がある。それは「その日その場で楽しく酒を飲む」こと。以上。至ってシンプルに聞こえるが、飲み屋で日々様々な人間たちを眺めていると案外難しいことなのではないかと思えてくる。
次のページ right-delta
居心地の良さは自分で作れる
1
2
3
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート