更新日:2020年09月03日 18:34
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北の女帝・金与正“危うい不時着”…激ギレ外交に兄貴もたじろぐ

南北共同連絡事務所爆破はトランプ大統領へのSOSなのか?

 朝鮮戦争の戦端が開かれてから70年の月日がたっても、分断の溝は埋まらないのか? 南北間の緊張は苛烈さを増すばかりだ。
金与正の「危うい不時着」

金与正・朝鮮労働党第一副部長

「南朝鮮当局者の演説を聞くと、我知らず吐き気を催した」 「一言一言に鉄面皮さと図々しさが不快な臭気とともに感じられる」 「表面上、正常に見えるが精神はおかしくなっているのではないかと心配になる」  口汚く罵るように吐かれた言葉は、北朝鮮の金正恩委員長の実妹である金与正・朝鮮労働党第一副部長が韓国の文在寅大統領に投げつけたもの。しかも激昂は口だけではなく、北朝鮮は韓国との和平の象徴的存在であった南北共同連絡事務所を爆破した。  文大統領といえば「南北融和」を掲げ、根気よく北朝鮮に手を差し伸べてきた政治家で、北朝鮮の開城工業地区内に17億円をかけて建設した南北共同連絡事務所の費用を負担したのも文政権だった。それを木っ端微塵に破壊する蛮行に世界中が震撼したことは記憶に新しい。  あまりに情緒的に見える外交方針には、どんな意図が込められているのか。ソウル在住のジャーナリスト・朴承珉氏の分析はこうだ。 「表向きは脱北者団体が北朝鮮に向けて撒いたビラに抗議しての爆破とされていますが、北朝鮮があらゆる面で行き詰まりを感じた末にとった行動だと考えられます。というのも、’16年に国連の経済制裁を受けて以来、北朝鮮経済は苦しくなる一方。裕福な人が集まっている平壌ですら、食料の配給が3か月も滞っているという情報すら聞こえてくる。そんな状況下だからこそ過激な行動に打って出たのでは。不満が高まる国民の目を外に向けさせ、なおかつ国際社会にも“北朝鮮の暴走は対処しないと危ない”と思わせるために、ギリギリのところを突いているのです」  とはいえ、北朝鮮側に韓国を敵視する動機がないわけではない。伏線となったのは、昨年2月にベトナムのハノイで行われた米朝首脳会談だ。  経済制裁の解除を何よりも望む北朝鮮は、事前に韓国の諜報機関トップから「寧辺にある核施設を破棄すれば、経済制裁は緩和される」とアドバイスを受けていた。金正恩委員長はそのつもりでトランプ大統領との交渉に臨んだが、何ひとつ合意に至らなかった。ここでの内幕は、ジョン・ボルトン前大統領補佐官が上梓した回顧録「The Room Where It Happened」でも詳細に触れており、文大統領の描いた絵図に乗った結果決裂したことから、北朝鮮は文政権に強い不信感を抱くようになったのである。
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金与正の“暴走”を絶妙に抑える最高司令官の存在
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