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「飲む?いいよ」スナックに現れた新妻は母乳をグラスに搾りだして…

お店に新妻がやってきて

 普段そこまで下ネタに乗ってこない彼の口から飛出した言葉に面食らっていると、方々の子持ちの常連たちが「俺もやった」などと呟き始める。とある常連の友人などは、育児費を稼ぐためにおっぱいの出る期間限定で「母乳バー」を開催していたという。ショット1500円。直飲み3000円。とんでもねぇバーだと思うが客は殺到し、大盛況の大繁盛だったそうだ。 「出るって言われたらさ、それは、飲むよね」  真理みたいに言うな。  ぬるくなったレッドアイに氷を足して一気に流し込みながら、わたしは自分の過去の男たちのことを思い出していた。行為の前の戯れに「おっぱい出ないのかなぁ~?」って言われたこと(出るわけない)、胸に顔を埋めながら「ばぶ~」って言われたこと。それによって謎に多幸感を得ていたこと。きっとオキシトシンとやらが過剰に分泌されていたであろうこと。なんだかよくわからないが嗚呼、男ってかくも本能でおっぱいを、母乳を、概念としての母を求める生き物なのだ。  複雑な思いで徐にビールサーバーのハンドルに手を掛けると、ぶしゅっと泡が吹き出し、ビール樽が空になったことを告げられた。飲み過ぎなのだと気付かされ、大人しく水を飲みながら猥談を続けた。  夜も更けた頃、勢いよく扉が開いて、マスク姿に少し疲れた目を携えて一人の女性が入ってきた。 「お茶ちょうだい。旦那と揉めたから気分転換」  久しぶりに会う彼女は椅子に座るなりスマホをいじりだして言った。  彼女の名はチアキ。わたしと同年代だが、数々のろくでもない恋愛を乗り越えて昨年ようやく最愛の年下彼氏をゲットして結婚に至り、六月に出産を終えたばかりだ。店の近所に住んているので、外を歩いていると時々彼女に遭遇する。最後に会った時は大きなお腹を重そうに抱えていたが、あっという間に元のするりとした体型に戻っている。 「久しぶりじゃん~。元気にやってる?」  言いながらお茶を差し出す。今まで山あり谷ありの恋愛話を聞かされていただけに、念願の家族を手に入れた彼女を前につい顔が綻んでしまう。 「まぁね~。子供はそんなに手がかからないんだけど、引っ越しの件でさっき旦那と揉めちゃって」  口にするワードがあまりにもわたしと縁遠くて、彼女が人の妻、人の母になったことを改めて実感する。しばらくは和やかに彼女の子供の名前やら引っ越し先やらで盛り上がっていたが、やがて隣の常連がぽつりと言った。 「そういえば、チアキって今授乳してるんだよね」  その一言に、先ほどまで母乳トークをしていた面々が急にハッと目を見開いた。
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え?飲む?持ってこようか?
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