第570回 9月5日「映画を観に行こう」
―[渡辺浩弐の日々是コージ中]―
・エンターテインメント業界の皆さんはコロナ禍に対応してどう興行を続けていくかどう生き残っていくかということで手一杯だと思うが、コロナ後のことは考えて、準備しておられるだろうか。ひきこもりでの視聴環境をすっかり整えた観客は、厄災が去ったとして、また映画館や劇場に戻ってくるのか。
・ものすごく久しぶりに映画館に行ってみた。ネットフリックス2ヶ月分の料金を払って、家で観たら5分で止めてしまうような苦粗映画を鑑賞した。映画館で見たおかげで最後まで我慢することができたのは、よかった。どんなに退屈なくだらない映画でも早送りせず中断せず最後まで見てしまう。それが映画館のいいところだ。これまでに大量のダメ映画をしっかり最後まで見てちゃんと時間を無駄にしてきた。
・家庭のAV環境の向上と低価格化は進んでいて、映画館に劣らない環境を簡単に揃えられる。コロナ禍の影響もあり業界は主戦場をネットに切り替えているから、今後は新作のメジャー作品も劇場公開とほぼ同時に配信でも見られるようになるだろう。
・それで映画館に残る価値について考えている。「暗闇の共通体験」の楽しさや怪しさだと思う。映画館に行くのはそれを求める人ばかりになっていく、としたら、映画館では少しくらい騒ぎながら見てもいいことにしたらどうだろう。
・タランティーノの映画で、スクリーンに向かって浴びせられる観客の罵声を聞いたことがある。効果音としてわざわざ入れられたものだった。とても懐かしい気持ちになった。1970年代くらいまで、上映中に声を出す人は結構いた。かつて映画は騒ぎながら観ても良いものだった(と思う)。
・80年代に入っても、B級作品のオールナイト上映ではゾンビが登場したり血しぶきが飛んだりするたびに皆、絶叫したものだ。後方の席からポップコーンが飛んでくることもあった。クソ映画でも、そんな雰囲気で楽しめたことが多くあった。
・今、映画館はとても上品な空間になった。音質も画質も最高級が当然で、画面が少しぼやけただけで料金を払い戻してくれる。その分、観客もマナーを求められる。私語は厳禁、それどころか頭を揺すっただけで注意されたりする。静かに画面に集中していないといけないのである。
・映像を騒ぎながら観る楽しみはネット上の、例えばニコニコ動画などに受け継がれていったわけだが、リアルに人が集まる場所の強みを生かして、コロナ後の映画館は再びそういう場になっていってもいいのではないかと思う。
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作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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