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カジノで得た120万円を、お手本のように2017年のトレンドで溶かした話

時は2017年後半。お祭り騒ぎだったあの頃

 当時は仮想通貨全盛期で、ちょうど何億円も稼ぐような「億り人」が発生したりしていて、全体の空気感としてもFXや株よりも簡単で遊びやすいイメージがあったので、とりあえず100万円で何かしたい僕にとってはちょうどいい釣り針だった。部屋で100万円を見ながら悶々と生活を続けて、目減りしていって普通の人間に戻っていくくらいなら「100万円を持った人間」のままでいたかった。  確か口座に入れてデビットカードで入金したと思う。120万円をそのままビットコインにぶち込んでレバレッジを当時のギリギリまで上げた。15倍だったと思う。  レバレッジとはlever(てこ)から来ている言葉で、その名の通り小額を大金として扱うことができるシステムで、例えば1万円持っていて100倍のレバレッジをかければ、1円を100円として扱うことができ、値動きの幅が100倍になる。本来1円儲かるところが100円儲かり、逆に100円値下がりすれば1万円損したことになり、元のお金の1万円を丸々失うことになる。文字に起こしてみるといかに異常なシステムか伝わるだろう。FXで大損しては破産、なんて悲劇が起こるのも大体このシステムによるものだ。  だから、僕は100円の値動きで1,500円の得か損をする形になった。  日常にスリルを潜ませるのは大事で、いつでも儲かるし損をする状態で生活するのは楽しかった。今思えば頭が悪いにもほどがあったが、毎朝出勤前と出勤後しか値動きを見てなかった。  すでにサラリーマンが苦痛になっていた僕は、上司に怒られたり従業員に文句を言われる度に頭の中で自分に都合のいい値動きのグラフを妄想していた。嫌なことがある度に「もしかしたらたった今30万円ほど儲かったかもしれない」と思い込むことでメンタルをコントロールしていた。追い込まれて心臓がギュッと小さくなり、血の巡りが速くなる感覚に合わせて頭の中にあるビットコインのグラフは角度を増していく。当時はすでに落ち着いていて、いざ仕事が終わってみると値動きがほとんどなかったのも良くなかったかもしれない。  上の空で働き始めて二週間経った頃、いつものように叱責や突然増えた仕事を処理している途中にビットコインのサイトからメールが来た。13時15分くらいだったと思う。2年以上経っても覚えている。昼過ぎだった。その時は全く気にしていなかった。そもそもすでに120万円が仮想通貨として浮いた状態にあることに慣れすぎていて気にも留めていなかった。  退勤の時間がきて、いつものように少しだけ多い仕事を振られて定時を少し過ぎた。ビットコインを確認する。携帯を開けば120万円あるこの状況が唯一の楽しみだった。一日かけて心にかかった煤を払う。そう、僕には100万円がある……。  そう思っていたが、驚いて心臓が止まってしまうことは実際にあるのかもしれない。そのときは脈打つ振動で胃が漏れそうになった。  ビットコインの口座はほとんど空になっていた。
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