恋愛・結婚

「今回は本気なやつかも…」スナックに出没する40代独女のしたたかな恋活戦略

すっかりお店にはご無沙汰で

 わたしたちは混乱した。桜田ちゃんには下心がある。それはわかりきっているから良いのだけど、相手の青年は一体何を考えているのかわからなかった。家賃が折半ならばタカリのヒモでもない。若いからワンナイトがアリなのはわかるけども、出会ったばかりの自分の倍くらいの年齢の女性と住むのまでアリなのか? 最近の若者もはや宇宙人だな、と思った。 「息子の面倒見る感じかなぁ」  そう言う桜田ちゃんは、頬の筋肉が自然と上に持ち上がってしまうのを隠しきれていない。上手く進みすぎている話に、わたしたちは不安を払拭できずにいた。  それからしばらくのあいだ、桜田ちゃんは全く店に現れなくなった。物件探しや手続きやらで忙しいという報告は受けていたものの、連日顔を出していたお客さんの顔を見なくなると少しさみしい。 「桜田ちゃん、もう引っ越し終わったかなぁ」 「二十代の男なんて」 「うまくやってけんのか?」  店に居なくても話題になる人というのは案外少ない。桜田ちゃんはわたしたちの中でそれだけ強烈なキャラクターであり、そしてたぶん皆そんな彼女をなんだかんだ言って愛している。  ふた月くらい過ぎた頃、久しぶりに扉の向こうから現れた桜田ちゃんの顔には満面の笑みが浮かんでいた。以前に増してふっくらとした身体が、言わずとも新生活が充実していることを物語っている。 「結局、ちゃんと付き合うことになりましたぁ~」  忙しくて家でも全然飲んでなかったから、久々のお酒は酔うねぇ~、と言いながらワイングラスを口へ運ぶ彼女は身体中から幸せオーラを発していた。こうして、彼女と彼についての色々な可能性を考え巡らせていたけれど、彼も純粋に桜田ちゃんを好いているというシンプルな可能性には考えが及んでいなかった汚れっちまってるわたしたちの一日は、今日もなすところもなく暮れてゆくのである。<イラスト/粒アンコ>
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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