恋愛・結婚

「今回は本気なやつかも…」スナックに出没する40代独女のしたたかな恋活戦略

究極の選択を強いる桜田ちゃん

「きょ~~だってぇ~あな~たぁ~を~♪おも~いな~がらぁ~♪」  そんな桜田ちゃんを見て、彼はけらけらと笑った。 「やっぱり桜田さん面白いっすね」  音楽をやっている二人のカラオケは当然盛り上がった。彼は澄んだ声でバラードを披露して、桜田ちゃんも得意のジャズっぽい曲をノリノリで歌った。あっという間に時間は過ぎて、一息ついた時に彼を見ると、我に返った顔でスマホを眺めていた。 「どうしたの?」  悪質なチューハイを飲みながら桜田ちゃんが訊ねた。 「終電が、ないです」 「え?」  時計を見るとまだ0時を回ったばかりだ。 「いや、俺ちょっと遠いから、この時間だともうないんですよ」  彼はしょんぼりして言った。その顔を見た桜田ちゃんはこのとき人生で一番の勇気を振り絞った。酔いが手伝ったというのもかなり大きいが。 「今、二つの選択肢があると思うの」 「はい?」 「ひとつは、このまま朝までカラオケする」 「はぁ」 「もうひとつは……」 「はい」 「ラブホに泊まる!!」 「え」 「大丈夫!泊まるだけだから!わたしは何もしないから!指一本触れないから!」  ここまで聞いた時、わたしたちは盛大にツッコんだ。 「絶対計算してただろオマエ!」 「なんでちょいちょいオッサンみたいな台詞になるの?」 「何もしないから、寝るだけだからって男が言うやつだろ!」

結局、ホテルに入った二人は…

 彼の承諾を得て泊まった歌舞伎町のホテルで、実際二人は何もしなかった。  大量の缶チューハイを買い込んでチェックインし、備え付けのカラオケでさらに歌って朝まで過ごした。ということになっている。そこは頑なに否定するのだが真実はわからない。いずれにしても、男女が合意の上でホテルに入った時点でセックスしていてもしていなくてもそんなに変わらない。彼は、朝までカラオケボックスに居るという選択肢も提示された上でホテルを選んだのだから、万が一桜田ちゃんとそうなっても良いという想いがあったということだ。とすると、彼の「お母さんみたい」という言葉は年上女性に母性を目覚めさせてヒモになるという線も捨てきれないが、意外と彼なのり素直な褒め言葉だったという線も出てくる。とするとやっぱりマザコンの線が濃厚になってくるわけで。  様々な思案が頭を駆け巡ったが、数日後に現れた桜田ちゃんはまたも我々を驚かせるような一言を放った。 「同棲することになりましたぁ~」  目が点になる、という状況をリアルに味わった。うっかり終電逃してラブホに連れ込み大作戦から何がどうなったら同棲まで話が進んでしまうのか。 「いや、ふつ~に引っ越ししたいんだよねって言ったら、俺もですって言われて」  じゃあ一緒に住んじゃおうかという話になったのだそうだ。 「そんなにさくっといくもん!?」 「ルームシェアみたいなもんだから。家賃もきっちり折半だし」
次のページ
すっかりお店にはご無沙汰で
1
2
3
4
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ