恋愛・結婚

スナックの美魔女に恋をした。愛のヒットパレードは彼女に刺さるのか?

粒アンコ

第三十五夜 足駄をはいて首ったけ

 スナックで働いていると夜ごといろんなものが見られる。  長く夜の世界にいると性根が腐ってきてたいていの物事は面白がることができるので、酔っ払いのバカ騒ぎも老人の武勇伝も若者の無理な見栄も笑って眺めている。(限界まで酔っていると全てが怒りに変わって全員ぶちのめしたくなりもするけど)こんな連載やって場末で働く自分を少なからず切り売りしていると、時折「場末で働いてせこせこライターなんてやってる女」なら簡単に落とせると踏んで安っぽい言葉でどうにかしようとしてくる人間もいるけど、そういう浅はかさもネットリテラシーの低さも、何よりそんな目を向けられている自分さえも全部笑けてくるけど、自分のことになると今ひとつ面白さに欠ける。  カウンター越しに眺めて最高に楽しいのは何といってもやっぱり人様の恋愛模様なので、わたしはその日もときおり時間を確認しては彼の来店を待ちわびていた。  毎週末、ヨッシーはだいたい22時過ぎにやってくる。真面目で小柄なサラリーマンである彼は、なんというか、うにゃうにゃしている。  うにゃうにゃしているのは一、二軒回って既に酔っているせいもあるんだろうけど、まぁとりあえずうにゃうにゃしていて、ぷっくりとした唇を綻ばせてイツモシヅカニワラツテイル(by宮沢賢治)。普段は感情の起伏がわかりにくいけど、彼の応援している球団の勝敗によって来店時のテンションに若干差があると気付いたのはわりと最近のことだ。

ロマンティックは深夜に突然…

 田中の隣に腰かけたヨッシーが「生ビール」といって少し俯いたので、その日はヤクルトが負けたのだとわかった。 「マスターとユキナさんもどうぞ」  ヤクルトが負けてもそんなことを言う彼を「人が好い」とわたしたちは思う。実際、彼は良い奴だ。口数は決して多くないけれど、年上の田中を敬い、女性に気を使い、大声で騒ぐようなこともせず、うにゃうにゃしながら誰にでもはにかむような笑顔を向けてくる。愛されキャラという言葉がわりとしっくりくるタイプだろう。  そんなヨッシーも、しばらく経って0時を過ぎたあたりから急にそわそわし始める。グラスの空くペースが5倍速くらいになる。そろそろお目当てが来る頃合いだからだ。  察したわたしたちは、みんなで顔を見合わせてちいさく頷く。彼は、ユイさんという美魔女の常連客に恋をしている。本人はいつも照れながら否定するけど周りの全員にモロバレである。  ヨッシーのセンサー通り、ユイさんは大量の菓子の入った袋を重そうに持ってやってきた。酒をほとんど飲まない彼女は、カラオケと会話を楽しみに来るといっても過言ではなく、店内のお通しやフードで足りないぶんの菓子類を持参している。
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お菓子を頬張る愛しい彼女
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