ライフ

女と畳は新しいほうがいい…のか?スナックを徘徊する中年独身男の論理

スナック粒アンコ

第三十四夜 絵に描いた餅食らう餅

 終電の時間が近づいてくると、ちらほらと時計を気にしだす顔がある。  たいていは働き盛りの既婚者たちだ。彼らは、「まだ子供がちいさいから」とか「奥さんにおこられるから」とか「明日も会議だから」とか現実的な理由で店をあとにする。  ふと気づけば、朝まで飲んでいるメンツは独身者ばかりになっている。翌日に仕事だとしても家族を養う義務のようなものは発生しないので、持てる時間のすべてを自己責任という名目のもと自由に使える彼らは、いつ何時飲みに出ても、何時に帰宅しようと誰に咎められることなく日々ゆったりとグラスを傾ける。 「まぁ、いい人がいれば」。時折そんなことを口にしながらも、焦るでもなく、妬むでもなく、制約のない生活の気楽さを満喫している。  これを書いているわたしも独身女であるけれど、もともとあんまり結婚に興味がないうえに、どう考えても結婚に向いていない自覚があるので、彼らにそういった話題を提供することもなく、また彼らの結婚観みたいなものも訊ねたことはなかった。  その日は独身の常連、N氏がくだを巻いていて、とんでもなく忙しいオーダー地獄のさなか「デュエットを歌え」とか「どんなに忙しくても俺の相手をしろ」とかわりと厄介なことを言ってくるので、わたしは「あとでね~」と苦笑いをしながら、ほとんどスルーしていた。そんなN氏をたしなめていたのは隣に座るタッちゃんなのだが、オーダーが落ち着く頃には謎の鬱モードに突入しており、さあ今からデュエットを歌おうとマイクを渡しても「俺はどうせ嫌われてる」と呟くばかりの生き物になり果てた。

どれだけ好きか10段階評価で

「そんなことないよ」とわたしは言う。ここで、「そうかもしれないね」と突き放すことも考えたのだが、以前それでスカートを燃やされかけたので今回はやめておいた。 「嫌いじゃないの?」 「嫌いじゃないよ」 「ほんとに?」 「ほんとだってば」 「じゃあ……どんぐらい好き?」 「はい?」 「1から10のうちどんぐらい好き?」 「あ~……6ぐらいかな?」 「やった~~!! 5以上だった! やった~~!!」  なんだこのやりとり。小学生か。  N氏は、女性へのこだわりが結構強い。そして、特別扱いをされたいという願望が強い(これは酒場に来る人間が誰しも少なからずあるのかもしれないが)。彼は女性の変化に敏感で「その服装、前にも見たな」とか「ちょっと太ったんじゃない?」とたびたびわたしを含めた女性への指摘を繰り返すが、自分はといえばせいぜい三種類ぐらいの服に百キロ近い巨体を押し込んでいる。  もうずいぶん長い間恋人はなく、アラフィフに差し掛かった今でも色めき立つのはいわゆる「お店の子」ばかりのようだ。普段は極めて愉快でおもしろいキャラクターだが、数か月に一回程度に出現するくだ巻きモードの日は、いつもわたしたちを悩ませる。
次のページ
火の粉は隣の常連客にも
1
2
Cxenseレコメンドウィジェット
ハッシュタグ
おすすめ記事