旅も人生も、どのルートを選んでも「出会い」がある/40代日雇い男の自転車出稼ぎ旅
僕は普段、日雇い派遣などの仕事で稼ぎつつ、時間を見つけてはタイなどの東南アジアを中心に旅してきた。この状況では海外旅行には行けそうにないが、日本国内ならば比較的自由に動けるようになってきている。旅がしたい。でも、社会の底辺で生きる僕にはお金がない。そこで「Uber Eats」の配達で稼ぎながら国内を自転車で旅するという方法をとることにしたのである。
旅に出て63日目、僕は兵庫県の姫路にいた。この日は日曜日だったのでウーバーの配達による収入は7137円となかなかだった。
64日目、姫路滞在最終日。この日の収入は前日の半分以下の3476円。しかし、姫路はこれまで通ってきた他の都市と比べてかなり稼げたほうなので、最後の日がこんな不調でもまあよしとしよう。
ゲストハウスに帰ると、共同のキッチンで夕食を作った。といっても、レトルトご飯をレンジで温め、それに納豆をぶっかけるだけである。明日の朝チェックアウトなので冷蔵庫に残っていた3パックの納豆すべて使うと、ご飯が納豆で見えなくなった。
納豆ご飯で腹を満たして食器を洗っていると、そこへ他の宿泊客の男性がやってきた。リビングのテーブルに卓上コンロと寸胴鍋をセットして僕にこう訊く。
「うどん食べんか?」
「いただきます」
僕は即答した。胃袋にはまだ少しだけ余裕があった。彼は香川県から泊まりに来ていおり、地元の讃岐のうどんをここで振る舞うためにわざわざ調理器具までいっしょに持ってきたらしい。
ゲストハウスのオーナーの城下さんの家族もいっしょにテーブルを囲み、うどんをつけ汁でいただいた。姫路最後の夜に讃岐うどんを食べられるとは思ってもいなかった。
姫路に来る前、神戸から姫路に向かうか、それとも、フェリーで香川県に向かうかで少し迷っていた。
香川県の高松にはニックというタイ人の友達がいた。彼は元ムエタイチャンプで、現在はうどん屋の店長をしている。彼に久しぶりに会いたかったし、彼の作るうどんも食べたかった。が、問題はウーバーの配達エリアのことだった。高松の次は愛媛県の松山まで配達エリアがなく、かなり距離が空いてしまう。そのため、仕方なく香川県ルートは断念していたのである。
しかし、たとえどんなルートを選んだにせよ、そこには必ずなにかしらの出会いは用意されているような気がする。それは旅においても、人生においても……。僕はそんなことを思いながらうどんをズズッと勢いよく啜った。
姫路最後の夜に讃岐うどんをいただく
どんなルートを選んでも…
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バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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