公営競技はバブル期並みの売上げだが……
まだまだ収束の気配を見せない新型コロナウイルス。ウイルスの脅威は当然だが、経済のダメージはこの先、何十年続くかどんな学者も予測がつかないという。
そんななか、不謹慎と思う人がいるかもしれないので大きな声で叫ばれていないが、地方競馬の売り上げがバブル全盛期と同等にまで跳ね上がっている。そして、今回ご紹介する大井競馬場公認予想『ゲートイン』吉冨隆安氏が立っていた同場で年末に行われた東京大賞典では、今までのレコードを4億円更新する約60億円という地方競馬における1レース最高売り上げを記録した。しかし、場内の飲食店及び吉冨氏のような場立ち予想家は、1年以上の休業を余儀なくされている。そんな実情とともに、大井競馬場の名物予想屋である吉冨氏の人生を追ってみた。
大井競馬場で場立ちの予想屋として名を馳せる吉冨隆安氏
――今の場立ちの方々の窮状を聞く前に、吉冨さんの経歴についてお伺いしたいのですが、どういった経緯で場立ちの予想屋になられたのでしょうか?
吉冨 私は鹿児島生まれなのですが育ちは大阪。大学を中退して2つほど事業を始めたのですが失敗して、東京に逃げてきたクチですね。家にゆとりがあれば、間違いなく引きこもっていたのでしょうが、そのスペースがなかったので止むを得ず……。人を傷つけたくないし、自分も傷つけたくない。だけど、何をやっても上手くいかない。そんな絶望の時に目に飛び込んできたのが競馬だったんです。私の決めゼリフに「競馬に勝って自由になる!」というのがあるのですが、競馬なら馬券さえ当たると成功を手にできる! そんな心境だったんです。
――あのキメセリフ「競馬に勝って自由になる!」は、お金さえあれば自由になれるという意味だと思っていました(笑)。
吉冨 ほぼ同じ意味ですよ(笑)。競馬は誰の顔色をうかがわなくても勝利を手にすることができる。サラリーマンは常に上司に気に入られることを考えないといけない、自営業をするにしたって、お客さんにおべんちゃらを使わないといけない。でも競馬は勝ちさえすればいい。しかも面白い。こんな楽しいものはないです。
――ただ、自分が予想家になろうと思っても、なかなか動けないですよね。
吉冨 そこは会社を2つ潰した行動力でしょうか(笑)。ただ、今はわざわざお爺さんに弟子入りしなくても、自分の予想を売ることができる。世間のみなさまに(自分の予想力を)アピールすることができる時代ですから……。
――どんな仕事でも子弟制度は崩壊していってますよね。
吉冨 私も子弟制度がいいとは思っていないですよ。力ある者は、どんどん戦って勝ち上がって行けばよいんです。私も弟子という立場で14年間場立ちをしていましたが、師匠と対等に商売させてもらっていましたから。助手というのは名ばかりで、師匠と売り上げも50:50でした。普通は6年くらいで独立するんですが、私が「組合を改革しろ!」とか好き勝手に喋ってしまうものだから、通常の倍以上(14年)かかってしまいました(笑)。
――競馬も全部が自由じゃないんですね(笑)。
吉冨 「競馬は社会を教えてくれる!」に変えないといけないですね(笑)。