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クレイジージャーニー出演の南米スラム写真家が日本で地方議員になったワケ

 生活と密接にかかわる身近なテーマが議論される場「地方政治」。しかしながら、人々に関心を持たれにくいという側面もある。コロナ禍で初めて自分が住んでいる自治体の首長の顔を知ったという人も少なくないかもしれない。  ブラジルのリオ・デ・ジャネイロのスラム街「ファベーラ」に10年間暮らしながら、そこで生きる人たちのリアルな日常を切り取る写真家として、テレビ番組『クレイジージャーニー』(TBS系)にも出演、大きな話題を呼んだ伊藤大輔氏。その後、2016年に帰国。神奈川県秦野市に移り住んだが、今どうしているのか——。
伊藤大輔

現在は秦野市議会議員でもある写真家の伊藤大輔氏

 2019年8月、秦野市議会議員に初当選。異色の経歴を持つ「地方議員」として活動を続けていた。今回は、その仕事について記した『おいしい地方議員 ローカルから日本を変える!』(イースト・プレス)を上梓した伊藤氏に、議員になったきっかけやローカル政治の実態を聞いた。

ブラジル在住のスラム写真家から日本の地方議員に

 約2年前、自身の集大成的な写真集『ROMÂNTICO(ホマンチコ)』の刊行に伴い、日刊SPA!でインタビューした際には「普通のオヤジに戻りたい」とも語っていた伊藤氏。  あれからわずかの期間で選挙に立候補した経緯について、新東名高速道路の開通に伴う土地利用や、土地整備案にかんする住民説明会に参加したのが直接のきっかけだと明かす。 「本当に普通の機嫌のいいオヤジになりたいんだけど、やっぱり黙ってられなかったんだよ。たまたま飲料メーカーの工場を近所に誘致するみたいな話があって、住民説明会で周りの人の話を聞いていても要領を得なかったというか。もう自分でやるほうが早いと思っちゃったわけ。  帰国して静かな住宅街に家を買って、俺もエネルギーが余っていたところも正直あるんだろうけどね(笑)」(伊藤氏、以下同)  伊藤氏は家族5人でブラジルから帰国。丹沢(神奈川県秦野市)の山々に近い、里山の風景が残る立地に家を購入したばかりだった。だが当時、子どもの通学路に当たる農地を産業利用ゾーンとして活用することが検討されていたという。

“同調圧力”に負けず、出る杭になる

伊藤大輔

演説中の様子

『クレージージャーニー』のイメージが強い人からすると、活動の内容がガラリと変わったように感じる人も少なくないはず。秦野市は伊藤氏の妻の地元とのことだが、出馬を決意した際の反応はどのようなものだったのだろうか。 「妻は嫌だったみたい。実はそこの説得が一番大変で……。ただ、俺は結局リアルなことが好きなんだよね。写真もいろいろあるけど、『うわっ!なんだ、この世界!』みたいなリアリティに惹かれる。その意味では政治ってかなりリアルだよ。  若い人がイメージするような堅苦しいものじゃなく、すごく生々しい。賛成・反対の中で人間の感情とかも露骨に出て、『普段あんな大人しい日本人がこういう時は散々やりあうんだな』と感じることもある。それがおもしろいと言うと変だけど、そういう一番本気のところじゃないと、俺は意味がないと思っているから」  秦野市議会には5期以上務めるベテラン議員も少なくないそうだ。伊藤氏は、地方政治の問題のひとつとして、閉鎖的な空間で長年にわたって醸成された“同調圧力”にかんして本書で指摘している。
ファベーラ

伊藤氏が撮影したファベーラのギャング。写真は『ROMÂNTICO』(イースト・プレス)より

 かつて伊藤氏は撮影のため、ファベーラで拳銃を手にしたギャングと向き合うこともあった。実際、ギャングとベテラン議員、伊藤氏にとってはどちらのほうが与し易いだろうか? 「議員と言っても基本的に普通のおじさんだからさ。何を言われようが、大丈夫。それくらい出る杭にならないと。そこはやっぱり世界各地の現場でいろいろ鍛えられてきたと思う。人前で話すことも慣れていたし、海外でカネの交渉とかするときだって、声がデカいことが活きていたよね。  もちろん、嫌われることもあるけど、最初に嫌われちゃった方が楽だというのもある。だって『あいつは最低だ』となれば、そこから上がっていくだけだから。他の新人議員なんかはしっぽり行儀よく振舞っちゃうけど、1発目にドカンといくと、後々ちょっとしたことで印象良くなったりもするから(笑)。それも意識的に計算しているわけではなく、ストリートでなんとなく学んだ立ち回り方だけどね」
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地方議会は“よそ者の視点”が足りない
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おいしい地方議員 ローカルから日本を変える!

ブラジルのスラム街で10年暮らした異色の現役・市議会議員が切り込む、 日本を変える最短ルート!
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