空港検疫における「日本固有の問題」とは
次に検疫検査ですが、ここが
日本固有の問題となります。入国時の検疫検査は、
富士レビオの抗原定量検査です。臨床感度50%、特異度99.5〜99.9%程度です。
PCR検査ですとこれらが原理的に感度100%、特異度100%ですが、臨床では、検体採取が鼻咽頭スワブの場合、臨床感度95%、特異度100%となります。検疫での抗原定量検査では次のような挙動を示します。
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発症者は、ウイルス量の多い、発症後時間が短い人となりますので取りこぼしません。これはPCR検査も同様です。
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不顕性感染者のうち、不感期間の人は、全員取りこぼします。これはPCR検査でも同様です。
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不顕性感染者のうち、発症48時間前以内の人も発症直前以外は取りこぼします。PCR検査の場合、ここでの取りこぼしがおおきく減りますが、確実とは言えません。
今日、本邦における全国の一日入国者は、最大2000人なので、抗原定量検査での非特異性による偽陽性判定は計算上、2〜10名/日程度です。PCR検査の場合、これはゼロです。この程度ならPCR検査による確定検査で容易に訂正できます。しかし、それならば
最初からPCR検査にしておいた方が良いです。
偽陽性の発生が有意にあり得ることは、現場へのおおきな負担となります。
PCR検査ならば特異性が関与した偽陽性はありません。しかもPCR検査は、よく使われているDirect PCRでは1時間で結果が出る為に速さが取り柄とされる抗原定量検査と30分しか変わりません。
問題は陰性で、日本入国時に次の取りこぼしが生じます。PCRでも取りこぼしますが、
抗原定量検査は、ウィルス量の少ない検体への感度が低いので脅威度の高い感染者集団も取りこぼす可能性があります。
1) 搭乗前PCR検査陰性で、検体採取時に不感期間だった不顕性感染者。
この集団は、既に発症したり不顕性で感染力を持ったりしている。PCR検査ならば大部分を発見可能。抗原定量検査はこの集団のうち発症前の集団を苦手とする。
2) 搭乗前PCR検査後に感染した人たち。
この集団は、その殆どが不感期間だが、感染後の経過時間によっては一部PCR検査で発見できる=感染力を持つ人たちがいる。問題は、抗原定量検査でこの感染力を持つ可能性のある集団を含めほぼ発見できないこと。
3) 到着空港での手続き中での感染者
抗原定量検査の感度の低さから、既に感染力を持つ不顕性感染者を取りこぼしている可能性と、現在検疫、入国管理が恐ろしく手際が悪いことで到着空港での入国、通関、検疫中に感染機会が無視できないという日本特有の問題が生じている。結果この三つ目の集団発生の蓋然性が高くなる。
結果、次のようなすり抜けの可能性が生じます。
1)の集団は、PCR検査なら感染力のある脅威度の高い集団を発見できるが、抗原定量検査ではすり抜けが有意に生じる
2)の集団は、PCR検査で発見できる人が居るが、抗原定量検査では発見は困難
3)の集団は、検査では発見できない
故に、最低限入国翌日から3日間の留置(留め置き)と最終日のPCR検査が必須となりますが、本邦では4月まで事実上これをしていませんでした。5月以降は、多くの対象国の人たちを3日間、6日間、10日間の検疫留置しているので、すり抜け機会は減っていますが、免除の人が居ます。また、3日や6日ではすり抜けが発生する可能性が無視できません。
1、2、3の集団、とくに2、3の集団は、出発国市中、出発空港、機内、トランジット、到着空港での感染者なので
出発国にかかわらず3日間の検疫留置*と初日PCR検査、最終日PCR検査は必須と言えます。更に入国時検査翌日から14日目までのホテル等での自己検疫が多くの国では罰則を持って厳格に運用されています。
本邦はここに穴があります。
〈* *実際、ウガンダ選手団からの二人目の検査陽性者は、6/19入国時抗原定量検査陰性、6/22に泉佐野で採取した検体がPCR検査陽性であった〉
本邦は、出発国によって検疫留置期間を3日、6日、10日としていますが、東部アジア・大洋州の多くの国では、14〜16日のホテル検疫にして厳格に運用されています。基本的に自己負担で、20万円くらいかかります。ここが日本は相変わらず弱点となっています。そして空港検疫検査が抗原定量検査なので穴が大きくなっています。