西から始まり西から東へとピークアウトする第6波だが……
写真はイメージです
海外から、本邦の世界的に珍しい
ザル検疫を突破して大量に侵入したSARS-CoV-2オミクロン株(ο株)ですが、桁違いに過去最大規模のSurge(波)で日本全体を蹂躙しています。
筆者は、第1波の前から統計を追跡してきましたが、それにより
11月に第6波Surgeは12月から社会に影響を及ぼし、1月末から2月に渡って極大期となると予測し、その後極大期は1月下旬から2月中旬と
予測してきました。これは本邦に先行してο株Surgeの発生した南アフリカ共和国(南ア)、米英欧各国の先行例からSurgeの立ち上がりから30日でピークアウト*し、ゆっくりと減衰していくとわかっていたためです。
<*「ピークアウト」は、和製英語であるが、本記事では敢えて使っている>
現実には、沖縄県が1月20日過ぎにピークアウトし、次いで広島県など高知県を除く中四国九州も2月10日前後にピークアウトし、ゆっくりと減衰しています。但し何故か世界で見られるSurge発生から30日でピークアウトに対して10〜20日程度遅れていることが目立ちます。更に、世界ではピークアウト後あまり減衰せずに下げ止まり、その後再燃する事例が多く見られますが、沖縄県ではその兆候があり、中四国九州でも同様となっています。
ここで沖縄県のPCR検査数、PCR検査充実率(1人の検査陽性者を見つけるために何人のPCR検査をしたかで検査陽性率の逆数)、日毎新規感染者数、日毎死亡者数について2021年11月1日から2022年2月17日までグラフ化したものを見ましょう。筆者は、基本的に日毎検査数(可能な限りPCR検査のみ)、日毎新規感染者数、日毎死亡者数の三つの変数を追跡しています。
一番上の橙色の点が百万人あたりの日毎検査数(ppm)、青点が百万人あたり日毎新規感染者数(ppm)、黒点が検査充実率、黄点が百万人あたり日毎死亡者数(黄点ppm)です。他に青実線が百万人あたり日毎新規感染者数7日移動平均、緑実線が百万人あたり日毎新規感染者数21日移動平均、黒実線が検査充実率7日移動平均です。
更に薄赤破線が日毎新規感染者数一週間変化率、灰破線が日毎新規感染者数二週間変化率です。筆者は、実効再生産数を使わず日毎新規感染者数一週間・二週間変化率から傾向の評価と予測を行っています。
なお、評価と予測に使っては居ませんが、東洋経済オンラインで用いている西浦博博士による実効再生産数算出の簡易式を用いて実効再生産数の計算は行っています。
沖縄県における検査数(橙点 ppm)、日毎新規感染者数(青点ppm)と日毎死亡者数(黄点ppm)、検査充実率(黒点 片対数 左軸) の推移2021/11/01〜2022/02/19(NHK集計と厚労省集計・統計処理と作図は牧田による)
沖縄県では、12月20日前頃から急激に感染拡大が進みました。沖縄県におけるο株Surgeの始まりを筆者は12月15日から20日の間と考えています。この後、1月1日には検査充実率(TCR)が10を割り込む「検査飽和」が始まり、1月10日以降は、富士山どころかエアーズ・ロックのように平べったく高止まりした波形が執筆時点の2月18日現在に至るも続いています。これは、検査数が上限となり、それ以上幾ら市中感染者数が増えても一定数以上は検出出来ない状態です。
これは10Vの電圧計で1000Vを測定しているような状態で、統計飽和してしまっています。理工学では、「サチる」(Saturation;飽和)と言われる状態で、測定が破綻している典型です。
沖縄県は、PCR検査能力から日毎新規感染者数の測定上限が1000ppm(ピーピーエム;百万分の一)=1‰(パーミル;千分の一)程度であり、それ以上は計れません。
その為この様な波形が出てしまえば、AIを使おうとビッグデータを使おうと予測モデルは成立しません。これは理工系大学学部生程度の常識です。
この検査不足による測定値の歪みは、二つあり、測定上限が低いことによる「飽和」と、サンプリングが過少な為による「
数え落とし」*によって統計値は現実と大きく乖離しています。このことを理解した上で現実の数字を推定する必要がありますが、本邦でこれをやっている人は筆者以外ほとんど見当たりません。これは疫学統計の基礎の基礎です。これを見落とした「シミュレーション」は、学部学生実験でも「不可」どころかレポート受け取り拒否されても仕方の無い代物です。
<*数え落としは、放射線計測では命に関わることであり、原子力労働者や放射放射線・放射性物質取扱の訓練を受ける学生は、非常に厳しく教育される基本中の基本である>
その飽和の度合いは、検査充実率からある程度推測出来ますが、沖縄県におけるPCR検査充実率は、1月1日以降、1〜4程度で著しい低位で安定しており、検査の飽和状態は全く改善が無いことが分かります。またPCR検査数も大きな変動がありません。沖縄県は再利用可能な形で統計を公開していませんが、情報公開度の高い都道府県の事例から、抗原検査を加えても総検査数は重複分を除外しない高め見積もりですら精々5割増し程度になる程度に過ぎないと分かっていますので焼け石に水です。
結果、最大値は1月初旬の傾向から外挿(がいそう)して推定しますが、日毎新規感染者数は1万ppm(1%)を超えた数値を極大とした後に減衰に転じているものと推定されます。要するに少なくとも10倍以上の過小評価をしている事になります。
この飽和してしまった統計からは現実を見ることは極めて困難ですが、半年後に死亡者数統計が確定しますのでそのとき、統計の復元が可能となります。これに対し筆者は、大阪府の第4波エピデミックで真の感染者を推定する倍数の計算をした実績があります。
統計が飽和してしまっても直近の変化率からある程度の傾向は推測出来ますが、沖縄県は、1月下旬にピークアウトした後にゆっくりと減衰し、2月中旬に入ると下げ止まり、執筆時点の2月19日には再燃を意味する日毎新規感染者数一週間変化率の正転が始まり、数日中にゴールデンクロス*が生じる見込みです。
<*短期移動平均が長期移動平均を下から上に突き抜けることを市況テクニカル分析などではゴールデンクロスと呼び、長期上昇への傾向の変化を示す。逆に短期移動平均が長期移動平均を上から下に突き抜けることをデッドクロスと呼び、長期減少への傾向の変化を示す。
参照>
執筆時点での沖縄県は、
収束どころか第6波エピデミックSurgeの再燃を示しており、深刻な状況です。
まきた ひろし●Twitter ID:
@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
メルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
記事一覧へ