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東京五輪ウガンダ選手団から陽性者続出。日本の空港検疫はどうなっているのか?

ワクチン接種済みなのに何故感染?

 今回、入国後に感染が発覚した選手団は、アストラゼネカのワクチンを二回接種済みとのことで話題になっていますが、これも仕方ありません。COVID-19第1世代ワクチンは、感染しても重症化しない、死なない事を目的に開発されています。その点ではきわめて優秀なワクチンです。  しかし、感染しない、感染させないという感染抑止の有効性は完全なものでなく、とくにアストラゼネカのワクチンは、δ株などに対しては有効性がたいへんに低くなります。  CNNなどで報じられている数値では、mRNAワクチンの感染させない、感染しない能力はそれぞれ60%との話です。往復だいたい90%の抑止なので双方マスクを付けていれば完璧でしょうが、社会的距離や換気により米欧で嫌われもののマスクの着用義務を解除できるかもしれません。実際にバイデン政権は、マスクマンデート(マスク着用義務)をワクチン接種完了者に限り緩和、解除の方向で動いています。  IHME(保健指標評価研究所・ワシントン大学)による現行のCOVID-19ワクチンの評価を見ると、mRNAワクチンの優秀さが分かります。
IHMEによるCOVID-19ワクチンの有効性評価

IHMEによるCOVID-19ワクチンの有効性評価。地色が白は実験による評価、他はIHMEによる推定値。ノババックスは、よりすぐれた改良型が第3相治験評価中(出典:IHME

 δ株に対してmRNAワクチンは80%を超える感染抑止能力を持つと評価されています。しかしアストラゼネカのワクチンでは、δ株に対して30%程度の感染抑止能力しか持ち得ないと評価されています。  執筆時点の2021/06/23時点で、ウガンダ選手団から検出されたウィルスが、在来株であるかVOC(懸念される変異株)であるか否かは不明ですが、ウガンダで流行しているウィルスは、α株とδ株、VOI(注目すべき変異株)であるB.1.525です。このうち在来株とα株、B.1.525に対しては、アストラゼネカのワクチンでの感染抑止は52%程度であり、δ株については有効なワクチンとして評価されません。  また、ウィルスの変異が進むにつれてmRNA系ワクチンを含めてその有効性は漸減しています。合衆国では、年内に3回目の接種が必要になるだろうとして治験など検討が進められています。

「ワクチンだけですべて解決」ではない!

 ワクチンは、たいへんに有力な感染症への対抗手段の一つですがCOVID-19は、はしかや天然痘と異なりワクチンを打てば解決という感染症ではありません。検査、検疫、隔離、社会的距離、マスク着用、換気、手洗いなどの手法と組み合わせることで高い効果を発揮します。  国内では、ワクチンさえ打てばなんとかなるというワクチン無双論が政府、厚労省、一部の医療従事者に見られます。ワクチンがなければ2019パンデミック(COVID-19パンデミック)を克服することは困難ですが、一方でワクチンを打てばあとは勝手に克服できるという考えは誤りです。  とくに変異の多いSARS-CoV-2では、ワクチンの有効性を維持する為にも感染者数と変異を増やしてはいけません。ウイルスは宿主に感染すれば変異しますので、感染者数が増えれば脅威となる変異が生じる可能性が増します。更に国外から新たな変異株が入れば、それが更に脅威となる変異を生じる可能性を増します。  ウイルスの変異とワクチンや治療薬の開発は、競争関係にあります。そして、治験による安全性と有効性の確認には少なくとも半年から1年の時間を要する為にウィルスが人間に対して有利です。  これは基本中の基本であって、そうであるからこそ、本邦のザル検疫とノーガード防疫は、人類にとっての脅威でもあるのです。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」Returns 1 <文/牧田寛>
まきた ひろし●Twitter ID:@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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