更新日:2021年08月17日 11:45
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ネットで騒然「8月20日富士山噴火説」の真偽、火山学の専門家はこう見る

噴火で続出するのが、目の痛みや気管支炎喘息など

富士山 宝永火口

宝永大噴火(1707年)で生まれた、富士山の宝永火口

 また、火山灰は、健康にも大きな影響を及ぼすという。 「地面に降り積もった細かい火山灰は、晴れの日に舞い上がると、飛散してなかなか消えることがありません。さらに、ごく細粒の火山灰は室内にも入り込む。花粉症以上に鼻やのどを痛めることがあります。また、目の角膜を痛めや気管支炎を起こす人が続出し、医療費が一気に増大する恐れもあります。また、火山灰の風下の地域では、居住環境の悪化が懸念されます。1980年に米国西部のセントヘレンズ火山で起こった噴火や、1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山の噴火でも、風下の広い範囲で居住環境の悪化が起こりました」

火山灰によって、パソコンやスマホの通信も遮断

 そして、現代社会において、何よりも怖いもの。それは、ネットインフラの寸断だ。 「細かい火山灰は、コンピュータや携帯電話などの電子通信機器にも大敵で、思わぬ障害に長期間悩まされる恐れがあります。1991年の雲仙普賢岳の噴火では、観測小屋の中にあったパソコンが動かなくなった。これは、コンピュータの放熱用の穴から、微細な火山灰が入り込んだためだったとか。同様に、細かい火山灰は浄水場に設置された濾過装置にダメージを与え、水の供給が停止する可能性もあり、火山灰が大都市のライフラインに及ぼす影響も心配されます。  特に、富士山の場合は、風下にあたる東側に、東京や横浜など政治経済の中心地があります。大量の火山灰が流れ込むハイテクの高度情報都市は、細かいチリに最も弱い存在といえるでしょう。もし富士山が大噴火すれば、首都圏だけでなく関東一円に影響をもたらすのは必定です」

噴火によって引き起こされる大混乱の中で、大切なのは「正しく恐れる」こと

 一度富士山が噴火してしまえば、日本の中枢である関東がマヒし、いずれは日本中の機能が止まり、大混乱が起こることが予想される。だが、恐怖にあおられてばかりではいけないと、鎌田氏は警鐘を鳴らす。 「我々は江戸時代とは、比較にならないほど高度で快適な機能を持つ都市に暮らしています。同時に、この生活は、当時と比べてはるかに脆い基盤の上にあることも、忘れてはならなりません。重要なのは、自然災害に対する正確な知識を事前に持ち、起きつつある現象に対してリアルタイムで情報を得ながら、早めに準備すること。過度の不安に陥るのではなく、『正しく恐れる』ことがポイントです。そのためには『正しい』を前もって持っておくこと。何も起こっていない今こそが大事なのです」  住んでいる地域や自らの家族構成やライフスタイルによっても、被害状況は変わって来る。だからこそ、個々人が、万が一富士山噴火が起こったに備えて、いまからできる限りのシミュレーションを行っておくこと。それが、自らできる最善の噴火災害対策だと心得たい。 鎌田浩毅(かまた・ひろき)  1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。現在は京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・京都大学名誉教授。内閣府災害教訓継承分科会委員、気象庁活火山改訂委員、日本火山学会理事、などを歴任。日本地質学会論文賞受賞(1996年)。「京大人気No.1教授」の「科学の伝道師」。著書に『富士山噴火 その時あなたはどうする?』(扶桑社)、『富士山噴火と南海トラフ』『地学ノススメ』(ブルーバックス)、『火山噴火』(岩波新書)、『火山はすごい』(PHP文庫)、『もし富士山が噴火したら』(東洋経済新報社)など。鎌田浩毅のホームページ
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