ニュース

コロナ禍で病床数が足りない今、自衛隊病院の廃止・縮小は本当に必要か?

新型コロナウイルス感染症患者の病床数は足りないまま

 新型コロナ感染症の患者を診る病床数が増えないのは、新型コロナに対しての防護の知識と実践力のある医療スタッフと施設の設備が追い付かないからです。ものや場所はお金があれば増設できますが、人工呼吸器、ECMO、透析装置など高度な医療機器を必要とする患者さんの治療には、十分な経験と知識と技術が必要です。しかも、命がかかっている重篤な患者さん相手にミスすることができません。そのICU内で新人を研修するような無茶な教育ができるはずがありません。  新型コロナ感染症では2類感染症指定医療機関と登録された感染症指定医療機関、結核指定医療機関が入院先となっています。一般の病院では新型コロナ感染症の患者がやってきた場合、その感染を防ぐすべが十分ではありません。病気治療のために通院している患者さんたちや医療スタッフが感染してしまう心配もあります。病床数は世界一なのに、なぜ医療逼迫なのだ?という声を耳にしますが、実は日本の病床は5種類に分けられています。一般病床、感染病床、療養病床精神病床、結核病床です。この中で新型コロナ感染症を診ることができるのは前2者だけで、世界一ではありません。  厚生労働省と東京都は23日、改正感染症法に基づいて都内すべての医療機関に病床確保や人材派遣を要請。特措法に基づく要請でも、感染者受け入れ病院には病床数を増やす努力をお願いしました。また、臨時医療施設への医療スタッフ派遣も要請しています。これは正当な理由がないにもかかわらず応じなければ勧告が可能で、勧告に従わなければ医療機関名を公表できるというもの。国が病床確保のために強い行動に出なければならないほど深刻な感染状況にあるということです。

自衛隊病院は廃止ではなく、むしろ能力拡大を図るべき

 コロナ禍でこれだけ自衛隊に頼っているというのに、なぜ逆をいくような決定を出すのか。むしろ自衛隊病院の病床数を増やすなどして能力を拡張し感染症にも対処できるようにする意識の切り替えができない頑固頭では国民は救えません。  自衛隊には医療の教育機関である防衛医科大学校もあります。この教育機関の定員を引き上げて、新型コロナ感染症に対処できる医者や看護官、薬剤官を国費で大量に育てるという考え方もあります。いっそのこと、自衛隊病院に必要な設備投資をして、新たな感染症にも対抗できる病床を擁した巨大病院にしてはどうでしょうか。  防衛予算を拡大できないのなら、別会計で予算を補填すればいいだけです。病床の確保に必要な費用などに充てる「緊急包括支援交付金」1.5兆円の予算はほぼ未消化で終わりました。これを自衛隊病院に投入すれば優秀な医療スタッフがいる病院ができます。  新型コロナ感染症は変異種も次々に発生し、しばらくは終息しそうにありません。医師会を説得して病床数を増やすより、自衛隊病院にその予算を投下して政府直轄の感染症病棟をつくるのが合理的です。人員数とその予算があれば、感染症対策と戦時治療の両立も可能でしょう。ヤル気と「緊急包括支援交付金」予算を使えばできます。  海上自衛隊佐世保・舞鶴・大湊病院は来年3月に診療所となり、衛生隊に吸収される恰好で消えてしまいます。病床数を増やすつもりが政府にあるのかどうか、最後まで見守りたいと思います。 <文/小笠原理恵>
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ