エアロゾルとは何ぞや?
経空感染の媒体である
エアロゾルという言葉はスプレー式殺虫剤などで聞いたことがあるかもしれませんが、日常ではあまりなじみがありません。エアロゾル自体は、非常に広い意味を持つ言葉で、日本エアロゾル学会の説明にあるように1nm〜100µmという5桁という広い範囲の粒径分布に渡る空中浮遊粒子を指します*。従って筆者は科学的厳密性から「エアロゾル感染」という用語も不適切であり、今後の用語の検討が必要と考えています。
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日本エアロゾル学会>
COVID-19の感染経路としてのエアロゾルは、クラシックな「飛沫」と飛沫液滴が蒸発したあとの「飛沫核」*を指す場合があり、この両者は空気中の挙動が全く異なります。
この日本感染環境学会の学習資料に明記されている通り、
飛沫と飛沫核では落下速度が全く異なります。飛沫は、くしゃみなどで排出された後数メートル飛行して落下し、感染に寄与しなくなります。一方、
飛沫核は、煙草や蚊取り線香の煙のように長時間空中を浮遊し、室内の気流やエアコン、特に中央空調によって広く拡散します。
COVID-19では、この
飛沫と、飛沫核などの空中浮遊微粒子が双方とも感染に寄与するために社会的距離の維持だけでは感染防御できません。
換気の励行が行われるようになったのはこの飛沫核などの空中浮遊微粒子が感染に強く寄与することが分かったためです。特にα株やδ株といった懸念される変異株(VOC)は、在来株より遙かに強い感染力を持ち、特にδ株では屋外のゴミ捨て場で挨拶しただけで感染した例が報告される*など、空気感染の脅威はたいへんに高くなっています。
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秘魯嬤「倒垃圾」Delta傳染鄰居 鄉民轟「居家檢疫亂跑沒人管」縣府說話了 2021/06/27 蘋果日報>
これらのことは、観測事実として武漢でのエピデミック当時から多数の報告と報道がなされており、論争となっていたことは、ハーバービジネスオンラインにて井田真人氏が昨年4月には発表しています*。
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新型コロナはエアロゾル感染するか? 確定的な結論はまだないが、予防原則をもとに先見的対策を! 2020/04/25 井田真人 ハーバー・ビジネス・オンライン>
先述したように、飛沫は数メートルの飛距離で落下し、その後は感染に寄与しません。しかし飛沫核などの空中浮遊微粒子は、煙草の煙のように長時間滞空し、空調ダクトなどから他の部屋にも拡散し、マスクの隙間からも入ってきます。
この
長時間滞空と隙間からも入ってくることが高性能マスクの重要性となります。
日本感染環境学会の資料にあるように、飛沫が感染媒体となる場合は、十分な性能を持つサージカルマスク(高性能不織布マスク)で阻止できますが、飛沫核などの空中浮遊微粒子が隙間を通過してしまいます。
その為、その為、N95マスクなどのレスピレーター(呼吸器)として設計された鼻と口を隙間なく覆う高性能マスクが必要となります。これはKF94、KN95、N95などが該当しますが、日常生活、活動においてはKF94マスクで十分です。感染阻止能力は、N95,KN95,KF94で95%以上とされますが、
不織布マスクを二重マスクとして着用した場合も90%以上の感染阻止能力があるとされます。
不織布マスクでも隙間を出来なくすれば十分な防御力を持ちますので、CDCや合衆国政府は不織布マスクの上から布マスクなどでカバーする二重マスクを推奨しています。既に秋も深まってきており季候も良いのでKF94が手元にない場合は、二重マスクで問題ありません。より具体的には
前回の記事をお読みください。
関東、関西、沖縄、北海道など日本全国で医療崩壊と社会機能の不全を引き起こしたCOVID-19エピデミック、第5波Surgeは、9月末時点で90万人の新規感染者と2600人を越える死亡者を出して収束に向かい減衰中です。
新規感染者数は、10月中に行われるであろう統計漏れの一括計上他を加えても100万人足らずと予想されます。第5波がこれまでと格が違うことは、第4波までの累計感染者数が80万人なのに対して、第5波だけで90万人を越えていることが如実に示しています。
第5波では、2020年1月から2021年6月までの18ヶ月間の累計新規感染者数80万人を2021年7月から9月までの3ヶ月間で10万人上回る90万人の新規感染者数を生じ、10月中旬までに統計の修正等も含めて公称95万人程度で収束する見込みです。
これだけの新規感染者が発生した結果、本邦の医療はひとたまりもなく全国各地で崩壊しました。しかしこれは、2021年4月のインドでの惨状からあらかじめ分かっていたことで、本邦では対応が後手後手に回った結果、8月に入ると東京から日本各地に医療崩壊が広がりました。収束過程が本格化した9月になって酸素ステーションが運用開始されても既に利用者が殆どいないなど相変わらずの手遅れぶりでした。
一方で、5月以降の急速なワクチン接種の成果で、最も高リスクの医療従事者と高齢者の接種率がきわめて高く、第5波死亡者数は9月末時点で2,600人余りです。COVID-19では、死亡は発症から18日後が平均で、加えて本邦では死亡の集計が20〜30日遅延しているため11月末まで第5波の死亡者数が統計に表れますが、4000〜5000人の死亡に留まる見込みです。結果、第5波での致命率は0.4〜0.5%となり、第3波と第4波で見せた致命率1.7〜1.8%と比べると1/3〜1/4と大幅に低下しています。
第一世代CVID-19ワクチンは、もともと重症化回避、死亡回避によって医療と社会の機能不全を阻止するために開発されており、感染回避は刺身のツマのようなものですが、接種完了率50%前後であっても十分に威力を発揮したと言えます。これは、
菅政権唯一の優れた成果と言って良いです。
第5波は、ワクチンの死亡回避効果が予想より高かったことと、7/22以降のモビリティ(移動傾向)の減少に伴い予測より2週間早く収束に転じたため死亡数が、高位予測40,000人、中位予測10,000〜15,000人ではなく低位予測の5,000人程度に収まる見込みです。これは、不幸中の幸いでしたが、世界の防疫研究者は、昨年同様の「秋の波」である第6波が10月半ばには現れると予測しており、実際に筆者はその兆候らしきものを本邦統計に観測し現在評価中です。
呼吸器系感染症は、寒く空気が乾燥し、換気が鈍る冬期に本番が来ることは100年前の1918 Flu Pandemic(スペインかぜ)からの常識で、本邦も昨年の第3波をナメてかかり過去最大である7,500人の死亡と東京における医療崩壊を経験しています。感染力が比較的弱い在来株であった第3波に比して現在は、はしかや風疹並みの感染力を持つδ系などの懸念すべき変異株(VOC)がドミナント(主を占める)ですので、基本的に夏の第5波に比して冬の第6波は3〜5倍の規模になり得るとして備える必要があります。
過去全期間の日本における日毎新規感染者数の推移(黒実線)とIHMEによる真の感染者数の推定(緑実線が中央値)
(人, 線形)2020/01/25〜2021/09/28
推定値は感染発生日なので実測値の14日先行している。筆者は実感染者数としてIHMEによる中央値(測定値の2〜3倍)を採用している
(source:OWID
風疹並みの強力な感染力を持ち「空気感染」するδ系の変異株をはじめとした現在世界で猛威を振るっているVOCは、相変わらずザル検疫*を素通し状態となっています。また日本中に蔓延した結果、本邦発の強力な変異株が発生する可能性も否定できません。筆者の統計観測では、余程無様なヘマをしない限り10月中は小康状態となりますのでこの間に「秋の波」=第6波に備えてください。またワクチンを接種しておけば、重症化と死亡は相当程度回避できます。そして
高性能マスクや二重マスクの着用は、安いコストと僅かな不便でCOVID-19から身を守ります。
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東京五輪ウガンダ選手団から陽性者続出。日本の空港検疫はどうなっているのか? 2021/06/25 牧田寛 日刊SPA!>
<取材・文/牧田寛>
まきた ひろし●Twitter ID:
@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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