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ウィル・スミスのビンタ、プロ格闘家が真面目に検証「下からの打撃は見えづらい」

打撃技としてみた“ビンタ”とは?

ウィル・スミス

©Starstock

 ビンタは素人の打撃入門編としては最適なのかもしれない。グーのパンチとパーのビンタの違いについて、勝村氏はさらに鋭く解説を進めていく。 「一般の方が拳のパンチを相手の急所に的確に当てるのって、なかなか難しいことなんですよ。普通は拳を握ることによって必要以上に力が入るので、大振りになってしまう。したがって、しっかりとしたインパクトを作れない。ましてや最短距離で顎の先端を狙うというのは至難の業でしょうね。  一方で手のひらを広げるビンタは、リラックスしていて無駄な力が抜けている状態。コンパクトに打ち抜きやすい。単純に拳よりも手のひらのほうが当たる面積は大きいですし、ウィル・スミスさんの場合は狙っている箇所も顎ではなく頬だったから失敗するリスクは少なかった」  クリス・ロックの立場からすると、唐突なビンタ攻撃を避けるのはほぼ無理というのは前述した通り。では、攻撃を喰らってからはどのように反撃するべきだったのか? 「反撃するのなら、『ビンタを喰らった直後に左のビンタを返す』が正解でしょうね。もしくはウィル・スミスさんは左ガードができていないから、そこにクロスカウンターを合わせるという選択肢も考えられる。最悪なのは感情的になって殴り合うことで、冷静に対処することが求められるのは大前提としてあります。  ただ僕の本音を言わせてもらえば、反撃なんてしないほうが絶対いいですよ。結果として、社会的な制裁を受ける可能性が高いですから。特に今回の2人は人前に立つ仕事だし、一種のイメージ商売じゃないですか。現にアメリカ本国ではウィル・スミスさんに対する非難のほうが大きいわけですし」

猪木、蝶野のビンタは?

 仮にウィル・スミスの攻撃がビンタではなく超高速低空タックルや首相撲だったら、もっと大きな社会問題になっていたはずだと勝村氏は予想する。もちろん柔道やレスリングの抑え込みで制圧しても、同様のバッシングを浴びることだろう。攻撃の手法がビンタだったから、この程度で済んでいるという見方もできるのだ。 「誤解しないでいただきたいのは、だからと言ってビンタなら安全という話では決してないということ。僕自身、プロレスの試合でビンタ合戦になることがありますが、耳の鼓膜が破れたり、脳震盪を起こしたことが何度もありますから。アントニオ猪木さんや蝶野正洋さんのビンタで相手がケガをしないのは、プロならではの“魅せるビンタ”に徹しているからなんです。余裕があればそうした角度から改めて映像を見直してほしいのですが、あの2人は掌底気味に手首付近を当てるのではなく、手のひらの真ん中をしっかり相手に当てている。耳にも顎にも当てず、頬をハードヒットしているから画的にも派手さが演出できる。あれはあれで匠の技ですよ。舌を巻くしかない」  ネットで調べると「ビンタ世界大会」なるものも開催されているが、選手たちの様子はさながら人間凶器と言っていい。階級差・体格差があると、技術では太刀打ちできないこともよくわかる。勝村氏はビンタされそうになったときの対策として、以下のようなアドバイスを送ってくれた。 「理由と状況にもよりますが、まずは常に冷静でいられる心構えをしておくこと。それから相手との体格差や武器の有無などを瞬時にジャッジする分析力も求められます。女性の場合、格闘技を少し習ったくらいで屈強な男に勝てる可能性は低いのですが、1対1で対面した際にパニックにならないだけでも非常に大事なことなんです」  やはり非常時に「防御」「逃亡」もしくは「反撃」するには、スイッチを切り替えて冷静に対処する精神力がカギとなりそうだ。現在、勝村氏はジム「リバーサルジム横浜グランドスラム」を運営しているが、対人で向き合う格闘技を習うことで危機回避能力は自ずと向上するという。 「格闘技を習うと、身体だけじゃなく心も鍛えられますからね。うちの会員さんには『スパーリングを重ねたことにより、会議で声が震えなくなった』と精神的にタフになったことを喜ぶ方もいます。今回の結論として、やっぱり路上でのケンカなんて勝っても負けても損するだけなんですよ。『金持ち、ケンカせず』の精神で余裕を持って流すのがベストかもしれませんね」 勝村周一朗◎かつむら・しゅういちろう 1976年、神奈川県生まれ。総合格闘家として修斗、ZST、HERO’Sなどの舞台で活躍。児童養護施設の職員として働いていたことから「リアルタイガーマスク」と呼ばれることも。10年には修斗世界フェザー級チャンピオンの座に輝く。13年のプロレス転向後はガンバレ☆プロレス、覆面MANIAなどのマットを主戦場に。名伯楽としても知られ、主宰するリバーサルジム横浜グランドスラムから多くの選手を輩出している。 <取材・文/小野田 衛>
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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