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ウィル・スミスのビンタ、プロ格闘家が真面目に検証「下からの打撃は見えづらい」

ウィル・スミスのビンタ、プロが真面目に検証

ウィル・スミス

©Starstock

 世論は完全に二分されている。俳優のウィル・スミスがアカデミー賞の授賞式でコメディアンのクリス・ロックをビンタで殴打した事件は、「妻の容姿を侮辱されたのだから当然の行為」という称賛派と「どんなことがあっても暴力は許されない」という否定派の意見が真っ向から対立。そしてここに来て改めて注目を集めているのが、ビンタという攻撃手段そのものの是非である。  今回、日刊SPA!は元修斗世界フェザー級王者で現役プロレスラーの勝村周一朗氏に緊急電話取材を敢行。「僕自身はウィル・スミスもクリス・ロックも肩入れする気は一切ない」と自身の立場を明確にしたうえで、「もしウィル・スミスにいきなりビンタされたら、どう避ければいいのか?」という問いかけには、「あのビンタは僕でも避けられなかった。世界レベルのプロボクサーでも無理かもしれない」と意外な返答をしてくれた。格闘技的な見地からすると、あの歴史的ビンタは様々な角度から検証可能らしい。 「避けられない理由は“感情の温度差”です。たとえ相手が格下であったとしても、軽いマススパーで動きを確認している最中にいきなりガチを仕掛けられたら対応できないものですから。今回のケースは受け身がまったく取れない不意打ち中の不意打ち。相手がずんずんと自分に向かっているにもかかわらず、クリス・ロックさんが無防備に顔を突き出していたのは油断しきっていた証拠です。だけどクリス・ロックさんがさすがだなと感じたのは、ビンタされたあとでもパニックにならずに平然とその場を取り繕ったじゃないですか。あれは今までステージをたくさん踏んできたという“場数の力”でしょう。普通はあそこまで紳士的に振る舞えません」  日常生活を送るうえで、いきなり他人から急襲される場面は滅多にない。だからこそ飲み屋で絡まれたり、暴漢に襲われた場合、多くの人はオロオロうろたえるだけの醜態をさらすことになるのだ。 「あの日のウィル・スミスさんは、1発ビンタ喰らわせたあとでステージを降りました。では、もし2発目、3発目と攻撃が続いていたらどうなっていたか? あの冷静さを見るに、たぶんクリス・ロックさんは攻撃をかわせるはずです。逆にパニック状態に陥っていたら、ウィル・スミスさんの追撃を喰らう羽目になるでしょう。動画で確認すると、クリス・ロックさんはビンタされたときに『オー! ワオ!』とオーバーなリアクションをしているんですよ。つまり、あれだけの非常時にもかかわらずプロのコメディアンとして職務をまっとうしているということ。ウィル・スミスさんの波状攻撃に対して、『オー! ワオ!』とおどけながらスウェーする姿が容易に想像できます」

ウィルが放ったビンタの精度

 ウィル・スミスの攻撃に関しては、格闘技通の間で「インパクトの瞬間、左のガードがきちんと上がっている」と評価する向きもある。意外に格闘技スキルが高いのではないかという意見だ。だが勝村氏は、これに疑問符を持っているという。 「運動神経が優れているのは間違いないでしょう。動きが俊敏だし、ビンタも正確に当てていますから。だけど、ガードはまったくできていない。たしかに写真を見ると模範的なガードの体勢になっていますが、動画で前後を確認すると印象がまったく変わってくるんです。あれはヒットした瞬間、たまたま左手が顎のそばにあっただけ。格闘技経験はほぼないんじゃないですかね。  ただし、ウィル・スミスさんのビンタにキラリと光るものがあったのも事実。踏み込んだ話をすると、ビンタする直前は歩きながら手を下げた状態だったじゃないですか。あそこからストレートを打つ場合、一度、顎の高さに手を上げなくてはいけないんですよ。下からだったらフック気味の軌道で打ったほうが速い。それに下から来る打撃って見づらいですしね。つまり、あれは理にかなった攻撃であると言えるんです」  グーパンチではなくビンタにしたのは、どういった理由があるのか? 「武士の情け」と見るべきか、「自分の拳を痛めないため」と判断するべきか……。 「おそらくウィル・スミスさんの怒りの質が拳を握る感情的なものでなく、どこか相手を蔑むような冷静さがあったからではないでしょうか。相手に最大限のダメージを与えようと考えたらグーで顎の先端を狙うのが正解ですが、そこまでの意はなかったのだと推測されます。バンテージもグローブもしていない状態での拳でのパンチは骨折する恐れもありますが、ビンタだったら骨折までは至りづらいでしょうしね」
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打撃技としてみた“ビンタ”とは?
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出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。

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