安倍元首相の訃報前にフライング投稿した、百田尚樹・山口敬之氏の虚栄心
参院選投開票日2日前、自民党最大派閥の領袖でもある安倍晋三元首相が67歳でこの世を去った。突然すぎる悲報は日本にどんな影響を及ぼすのか? ノンフィクションライターの石戸諭氏が記す(以下、文/石戸諭氏)。
安倍元首相の銃撃事件は、多くの人に衝撃を与えた。銃弾に倒れた後、病院で懸命の蘇生治療が続けられたが、7月8日午後5時3分に死亡が確認された。卑劣な暴力によって、政治家の生命が絶たれてしまっていいわけがない。喪心より哀悼の意を表し、お悔やみ申し上げます。
涙で目を腫らした岸田文雄首相や、かつて安倍氏と激しい論戦を交わした各党党首も一致して「暴力を許さない」とコメントを発表した。最終日まで選挙活動続行を決めた茂木敏充自民党幹事長を含め、民主主義が暴力によって歪められてはいけないという姿勢が広く示されたことは、歴史に記録されるべき出来事だ。
一連の経過のなかで私が解せなかったのは、安倍氏の友人とされてきた人々のあまりに軽い振る舞いだ。元TBS記者の山口敬之氏は自身のフェイスブックに、死亡が確認された時刻より1時間以上も早くスクープのような形で「死去」を伝えた。作家の百田尚樹氏も午後4時59分に「亡くなられた」とツイッターで伝え、自身のYouTubeチャンネルの配信を予告した。
なるほど、山口氏は独自のルートがあるのだろうし、記者たるもの公式発表より早く伝えたいという思いはわからなくもない。百田氏にも、百田氏の思いがあることは理解できる。だが、笑顔を浮かべる安倍氏とともに自身が写った写真を掲げた“スクープ”や、集中線や作り込まれた表情を多用したYouTubeのサムネイルから何を感じ取れというのだろう。
そこに見え隠れするのは、「安倍氏と近い」自身の姿ではなかったか。だからこそ、少なくないユーザーから批判があったのではないか。山口氏からは弁明のような投稿が、百田氏からは「★お詫び★」ツイートがあった。
慎み深さを感じさせた政治家に比べて、旧来的な価値観のスクープ合戦の文脈に落とし込むこと、あるいは自身のメディアへ誘導するというあまりに軽い振る舞いがあった。保守派をまとめあげてきた安倍氏亡き後、彼らの影響力はどこに向かうのか。改めて注目しておきたい。
※編集部註:山口氏はその後、フェイスブックで「完全な誤報でした」と謝罪、「情報を下さった方」が誤っていたと説明した(10日午後)
※週刊SPA!7月12日発売号より
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『東京ルポルタージュ』(毎日新聞出版)
訃報をスクープのように流す“お友達”の軽さも記憶しておきたい
死亡が確認された時刻より1時間以上も早くスクープが…
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