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浅慮の果ての国葬<著述家・菅野完氏>

―[月刊日本]―

「保守層」の数的小ささが露呈

日本武道館 岸田総理が安倍晋三の国葬を記者会見で発表したのは7月14日のことだった。  その翌日の7月15日に時事通信が配信した「異例の対応、保守層へ配慮 国民の理解カギ――故安倍元首相の国葬」と題された記事を今読み返してみると、実に興味深い。  記事は総理記者会見後の永田町各方面の動きをひとさらいする内容で、与野党各党の反応がこう記されている。 「(自民)党内は歓迎している。安倍派の西村康稔事務総長は記者団に『内閣としての判断はうれしい。国を挙げて功績を評価するということだ』と指摘し、保守派の閣僚も『首相が決断してくれて良かった』と語った。一方、『保守層をつなぎ留める狙いもある』(幹部)と打ち明ける声や、『妙な神格化が怖い。これを利用する政治家が出てこないことを願う』と懸念を口にする向きもある」 「立憲民主党の関係者は『簡単に決めていいのか。安倍氏を賛美することにならないか』と指摘。同党幹部は『死去直後で表立っていなかった批判が今後、顕在化する可能性がある』と述べた」 「公明党関係者は『安倍氏への批判もある中、うちとしてはやりたくない。静かに送れる雰囲気ではなくなるかもしれない』と語った。党内には閣議決定ではなく新法制定を求める意見もある。山口那津男代表ら幹部はコメントを出さなかった」  最も興味深いのは記事の締めくくりにあるこの証言だろう。 「自民党関係者は『国葬への支持は7割は必要だ。政府が国会でしっかり説明しないといけない』と述べ、国民の理解が重要だとの認識を示した」

あまりにも浅慮だった岸田総理の判断

 この記事から2か月たって、事態はどうなったか。 「政府が国会でしっかりと説明」する気配などさらさらない。確かに岸田首相は閉会中審査で与野党からの質問に応じたが、所詮は閉会中審査。その答弁内容も7月14日の記者会見内容と大差なく、とてもではないが「しっかりと説明」したとは言い難い。  報道各社の世論調査を見てみると、ひとつの例外もなく国葬への反対意見が賛成意見を上回っている。「7割は必要」とされた「国葬への支持」など望むべくもないどころか、むしろ不支持が7割に迫る勢いだ。反対意見の内容を見てみると、安倍晋三への評価もさることながら、国葬実施の法的根拠の脆弱さを懸念する声が多いようだ。公明党党内の「閣議決定ではなく新法制定を求める意見」が正しかったわけだ。  事態は総じて、前出の記事にある立憲民主党幹部の「死去直後で表立っていなかった批判が今後、顕在化する可能性がある」との懸念が的中した格好となっていると言っていいだろう。  全ての懸念が的中する中、案の定、内閣支持率は急落。岸田総理はいまごろ頭を抱えているに違いない。  もしこうした懸念材料を全て放擲し、岸田総理が国葬を決断した理由が、前出の記事のように「保守層をつなぎ留める」ところにあったとするならば、あまりにも浅慮だろう。  岸田内閣のみならず近年の自民党政権が頼みの綱とする「保守層」とやらは、さほど数的に大きいわけではない。安倍晋三存命時にあたかも「保守層」が大きな塊に見えていたのは、安倍とそれを取り巻く一群の人々が、保守系メディアで奏でる一種の〝エコーチェンバー〟が機能していたからだ。  皮肉なことに、「保守層」とやらが数的には小さいことを今回の国葬騒動が定量的に浮き彫りにしてしまった。もし「保守層」が「つなぎ留める」必要あるほど大きな存在ならば、国葬反対意見がこれほど大きくなることも、統一教会との接点如きでこれほどの騒ぎになることもないはずではないか。岸田総理はまさにプラトンの「洞窟の比喩」の「洞窟の住人」のごとく、幻影を実体だと勘違いする浅はかさを露呈したわけだ。  浅はかといえば、こうして岸田内閣に「つなぎ留め」る配慮をされた「保守層」も浅はかである。世論の大勢にあらがい必死に国葬擁護論を展開しているようであるが、そのことごとくが現実によって反駁されている。  一時期猖獗を極めた「弔問外交が展開されるから国葬すべきである」という愚論などその最たるものだろう。弔問外交がそれほど大事ならば安倍晋三の葬儀だけでなく、もとより全ての内閣総理大臣経験者を国葬にしておかなければ理屈に合わないではないか。  現実はさらに冷酷だ。なんと安倍晋三の国葬の10日前にイギリスでエリザベス女王の国葬が行われるという。あちらはまがりなりにも在位中の元首の薨去だ。当然のことながら、東京に集まるであろう各国代表の顔ぶれは、ロンドンに集まる各国代表の顔ぶれより見劣りするものになるに違いない。
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「靖国神社擁護論」の崩壊
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特集②国交正常化50年 日中関係改善に乗り出せ

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