ニュース

戦地に散った日本兵の「寄せ書き日の丸」。戦後77年経った今も海外から遺族の元へ

自身に起こった奇跡がOBONの始まり

OBONソサエティ

写真/OBONソサエティ提供

――なぜこの団体を立ち上げようと思ったのですか? 敬子:私自身の体験によるものです。私の祖父は、兵士としてビルマ(現ミャンマー)へ出征し、帰らぬ人となりました。ですが、他の多くのご遺族と同様に、遺骨も遺品も何一つ返ってこなかったんです。戦死通知書と小石がたったひとつのみ送られてきただけだと、母から聞かされていました。 ですが、戦後60年以上がたったある時、祖父の寄せ書き日の丸が見つかりました。旗は戦後、カナダのとある古物収集家の手に渡ったそうで、その方が亡くなる寸前に「この旗を、日本の遺族に返して欲しい」という遺言を残されたようです。 その言葉を受けた息子さんが、日本に来た際に成田空港近くのホテルのコンシェルジュに事情を話して旗を託されたそうです。そこから約8か月後、まさに奇跡が重なって我が家に旗が帰ってきたんです。 ――多くの方の思いがつながったのですね。 敬子:「もうおじいちゃんのことは心の中だけに」と思っていた中、祖父の名前やよく知っている近所の人の名前が書かれた旗が帰ってきて、本当にびっくりしました。 母は「おじいちゃんが諦めず、長い年月をかけて帰ってきてくれはった」と泣きながら言うんです。 ――敬子さんはその時はまだ、「寄せ書き日の丸」という風習はご存知なかったんですか? 敬子:はい。なので「これは一体、何なのだろう」という思いでした。この旗が返ってきた経緯を考えると、奇跡が起こったとしか言いようがないとその時は思っていました。 その後、レックスと結婚することになって、この話を彼にしたんです。 歴史家である彼はこれに大変驚き、調べてみようということになりました。 すると「寄せ書き日の丸」は我が家の1枚だけでなく、まだまだたくさん海外に眠っているということがわかったんです。それならば、他のご遺族にも私たちが経験した奇跡を届けることができればと思ったのが始まりです。

それぞれの遺品にそれぞれの背景

――2009年に活動を開始して、これまでにどのくらいの遺品を返還されたんですか? 敬子:返還のご依頼を受けた約2200件の中で470件ほどが無事にご遺族のお手元へ戻られました。ですが、80年以上も前に作成された旗を手掛かりに、贈られた兵士さんのご遺族を探し出すのはやはり容易ではありません。 ――最も印象に残っている返還はなんですか? 敬子:米国海兵隊として日本兵と戦ったマービンさんのものです。マービンさんは戦地から旗を持ち帰り、長年大切に保管されていました。そしてOBONの広報活動を通して「寄せ書き日の丸」の意味を知られ、ご遺族へ返還したいと希望されました。その後、日本のご遺族捜索の末に、旗の持ち主だった戦没兵士の弟さんと妹さん2人が見つかったんです。 ――ご遺族も、まさかお兄様の遺品が70年以上経って返って来るとは思いませんよね。 敬子:ご遺族は、お兄様と別れた日のことも鮮明に覚えていらっしゃいました。サイパンで戦死したという通知のみが届き、どのように亡くなったかもわからず「苦しい最期でなければいいな」とずっと思われていたそうです。 ――なるほど、そしてどのように返還なさったのですか? 敬子:マービンさんは「日本へ行って、この手で返したい」と希望されました。 ですが、93歳というご高齢のため体力面などの心配もあり、事前にお会いしてみることにしました。ご自宅を訪ねると、心身ともにお元気でいらっしゃることが分かり、一緒に日本へ行っていただくことにしたんです。 ――アメリカの元兵士と会うご遺族の気持ちは、どのようなものだったのでしょうか。 敬子:マービンさんの、返還したいという思いと、はるばる日本に行って直接渡したいという誠意が伝わったようで、大変歓迎されました。弟さんはマービンさんをひと目見ただけで以心伝心したようで、二人は手をとりあって返還式典の会場まで一緒に向かわれるほどでしたね。 マービンさんは、戦地で旗を手にして持ち帰った時の様子をはっきり覚えていらして、ご遺族へ話されました。弟さんは記憶に残っている兄の匂いがするかもと思われたそうで、旗に顔を埋めて涙されていました。長年の心の終止符となったのか、マービンさんと固い握手を交わされていました。
OBONソサエティ

写真/OBONソサエティ提供

OBONソサエティ

日本での返還を希望されたマービンさん。旗は遺族のもとへ 写真/OBONソサエティ提供

次のページ
寄せ書き日の丸の返還が伝えること
1
2
3
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ