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いにしえのツーショットダイヤル、それは誰からも否定されない優しい世界……のはずだった

全てのツーショットダイヤルをやり尽くしてしまった僕は……

 そういった否定されない世界を回遊し、少しだけ根本の部分で自分に自信を持ち始めたとき、ある事実に気が付いた。  いよいよメジャーどころのツーショットダイヤルを使い尽くしてしまったのだ。雑誌の目立つ部分に華々しく広告を打っているメジャーなところは使い尽くしてしまった。いよいよ白黒ページだとかに広告を載せている小規模な怪しいサービスを使うことになっていった。  小規模なところは初回のサービスもあまり大盤振る舞いではなかった。大手が15分無料のところを5分無料だとかそんなレベルだ。みみっちい。それでも背に腹は変えられん、僕は否定されない世界が欲しいんだ、と使い倒していると、とんでもない女性にあたった。  「もしもしぃ、わたし、SMの女王やってるんだけど」  その辺のおっさんかと思うほどに野太い声、SMの女王といえばどんな手抜きでも許されると思っていそうなふてぶてしい態度、やる気のない言動、明らかに会話を伸ばす目的のサクラ丸出しなのだけど、ここまでの荒々しいサクラは見たことがない。野生のサクラなのかもしれない。  「僕ちゃんはどんなプレイがいいのう」  女王がおっさんみたいな野太い声で話しかけてくる。こんな荒々しい女王であっても、絶対に僕を否定しない優しき世界を展開してくれる。どんな僕でも受け入れてくれる。サクラだからだ。  ふと、どこまで暴走しても受け入れてくれるのだろうかと、めちゃくちゃな性癖を設定してみたくなってしまった。自分でもありえないレベルなめちゃくちゃな性癖であっても否定されない世界、そうなればここは完全なる理想郷だ。なんとなくこの荒々しい女王様ならなんでも受け入れそうな気配もあった。  「ああ、女王様、僕の性癖を聞いてくれるんですね。ああ、でもこれを言ったら女王様にひかれてしまうかもしれません! 僕はそれが怖い」  軽くジャブを入れてみる。

どんな性癖でも受け入れてくれるはずだ

 「大丈夫よ、私は女王よ。どんな性癖でも受け止めてみせるわ」  女王様、けっこう頼もしい。  「実はですね、僕、ケント紙で体をグルグル巻きにされたいんですよ。それでこのケント紙!と罵って欲しいんです」  「ケ、ケント紙……!?」  「ええ、ケント紙です」  「他の紙じゃダメなの? 和紙とか光沢紙とか」  「ケント紙じゃないとダメなんです!(半ギレ)」  ここは否定されない世界なので、ケント紙に包まれて罵倒されたいという性癖も叶えてくれる。  「このケント紙! ケント紙!」  野太い女王様も戸惑いながら罵ってくれる。 「ああああああああ、もっとケントのところを強めに言ってください! あああああああケント紙いいいいいいいい」 冷静になると、なにやってんだ俺たち、となるのだけど、ここで冷静になってはいけない。ここは否定されない世界なのだ。女王様も、僕自身も、僕を否定してはいけない。 この女王様は野太いながらもノリがいい。これはもっと暴走しても大丈夫だぞ、そう確信した。 「ケント紙も飽きちゃいましたね」 いきなり素に戻ってそう告げる。突如として冷静になるのがポイントだ。
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女王様を怯えさせてしまったかもしれない僕
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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