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岸田首相は遂に「増税派の傀儡」としての本性をむき出しに/倉山満

利害の一致した財務省と日銀による「増税派」

 従来、財務事務次官出身者と日銀プロパーが交互に正副総裁を出し合う「たすきかけ人事」を行ってきた。政治介入を防ぎ、官僚が勝手に人事を、そして経済政策を壟断(ろうだん)する体制を再び築きたいのだ。  財務省にとって日銀総裁は最高の天下り先でロイヤルロードと呼ばれる。日銀総裁に就いた元事務次官は彼らの世界で「ドン中のドン」の地位を手にする。事務次官を経験していない黒田氏の総裁就任を苦々しく思ってきた。日銀は自分たちの思想に反する金融緩和を行ってきた黒田路線を一刻も早く否定したい。  ここに財務省と日銀の利害は一致した。かくして「増税派」が形成された。そして支持率低下で窮地に追いやられている岸田首相に手を差し伸べて、今回の防衛増税を仕掛けてきた。日銀人事を制し、金融緩和を潰すために。

岸田政権が存続する限り、黒田路線は……

 金融緩和とは、低金利政策である。日銀は、一刻も早く金融緩和を止めて利上げをしたい。ようやくデフレ脱却が見えてきたところで、借金の利子を高くしてしまえば、デフレに逆戻りするのは目に見えている。例えば、変動金利で住宅ローンを組んでいる人など、地獄だろう。給料が上がりそうな直前で景気回復策をやめる。なぜそこまで日銀は金融緩和を憎むのか。「そういう宗教だから」としか言いようがない。  また、財務省は増税を実現した者が出世する、日銀理論では「利上げは勝利!」なのである。始末に負えないが、総理大臣を取り込んで、我々国民に対して増税を仕掛けてきた!と思わせて、囮である。  結果、’23年の増税は避けられた。しかし、岸田首相は生き残った。おそらく1月下旬に通常国会が開かれ、2月あたりに岸田首相が人事を提示する。となると、正副総裁候補に、今ごろ打診が行く。岸田政権が存続する限り、今の黒田路線を否定する人事が行われるだろう。誰も抗することができない。  私は蟷螂之斧(とうろうのおの)の如く、「リフレ派の若田部昌澄副総裁の総裁昇格を!」と、狂ったように言い続けたが、風前の灯火だ。

長期金利の上限引き上げは“実質利上げ”だったのか

 そんな中、12月の日銀政策決定会合で、長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた。発表された直後、円高が4円も進んだ。これは「実質利上げか」と報じられた。  かなり高度で技術的な話なので詳細は省略するが、黒田総裁の説明および専門家の言を総合すると、これは「利上げ」ではない。この種の技術的な利上げは、過去の黒田日銀も行っている。では、金融緩和を否定したいマスコミが煽ったから円高が進行したのか。  ’22年に入り、国債の市場が歪んでいるので、是正を図ったとのことだ。すなわち、10年債の金利と7~9年債のそれが逆転する現象が起きていた。だから引き上げただけ、とか。  確かに、金融緩和によって生じた歪みはあった。だが、黒田後任の総裁がそれを理由に大きく金融緩和を修正したら、余計に悲惨になりかねない。だから、先手を打って衝撃が大きくない時期とやりかたを選んで、今回の「実質利上げ」と受け取られかねない挙に出た、とのことだ。
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黒田日銀総裁は「敗戦処理」をしたのではないか
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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