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藤井五冠への挑戦権を得た羽生九段、30年の全盛期を築いた「驚異的な復活力」/倉山満

政治は岸田内閣の朝令暮改がひどすぎる

 岸田内閣の朝令暮改がひどすぎて政治の記事が書けないとのボヤキを聞く。つまりすぐに状況が変わるので、すぐにネタが腐ってしまうのだ。  既に1か月で大臣が3人辞任の新記録(?)を樹立。3人目の寺田総務大臣の辞任のプロセスは、マスコミが実況中継の如く報道する有様だった。それに何の意味があるか? 岸田内閣が政権担当能力を無くしている証拠を示しているだけなのだが。  また、朝に「岸田首相、内閣改造の方針を固める」の報が流れると、昼の官房長官会見で否定。それでもマスコミ各社は構わず記事を流し続けた。文字通り、朝令暮改だ。  ということで、政治に明るい話題が無いなと思っていたら、文化では清々しい話題が。

羽生九段が最強の藤井五冠への挑戦権を得たという快事

 今の将棋界で最強の棋士は、藤井聡太五冠なのは衆目一致だ。その藤井五冠が持つタイトルの一つ、王将に羽生善治九段が挑戦を決めた。  王将戦は1年をかけて予選を戦い、決勝リーグは7人で争う。強豪ぞろいで、藤井五冠の他に「四強」と言われる、渡辺明名人、永瀬拓也王座、豊島将之九段も顔をそろえる。この王将戦の挑戦者決定リーグを羽生九段は全勝で勝ち抜けた。もっとも最終戦は4勝1敗で追う豊島九段が相手だったので、負ければ5勝1敗の同星で、プレーオフとなった。どうなるか展開がわからなかった薄氷の勝利だったのだ。勝負の世界では「結果は大差に見えるが、中身は僅差」ということはよくある。  20歳にして「史上最強」との呼び声が高い藤井五冠に、明らかに絶頂期を超えた52歳の羽生九段が挑む。将棋は競技可能年齢が高いとはいえ、基本的にスポーツと同じで若い方が強い。脂が乗っている棋士をなぎ倒し、最強の藤井五冠への挑戦権を得た。それだけで快事ではないか。

驚異的な復活力で30年間君臨し続けた

 ちなみに、羽生の前に時代を築いた中原誠十六世名人は引退前まで「羽生さんと大舞台(タイトル戦)で戦いたい」と述べていたが、果たせなかった。  かつての羽生九段は、当時将棋界に存在した七つのタイトルを全冠制覇。七冠王になったこともあり、その時は一般マスコミにも大きく取り上げられた。一方で将棋界では「羽生さんは負けた時だけがニュース」と言われたものだ。それを30年間続けた。  では、なぜ続けられたかと言うと、驚異的な復活力だ。  羽生九段は、15歳の時にプロに。中学生棋士は、史上5人しかいない(他に加藤一二三九段、谷川浩司十七世名人、渡辺明名人、藤井五冠。全員が名人経験者で、藤井五冠も今年は史上最年少名人の記録がかかる)。  若い頃は、強引な攻め将棋。力で押し潰す。強敵と当たって不利になった時は、普通の棋士なら諦める局面で、どんなに屈辱的な展開になっても諦めない。そうすると相手が間違え、勝ちを逃す。いつしかその逆転術は、「羽生マジック」と呼ばれるようになった。
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世代のトップでいるために、羽生は同じ相手に3年連続負けなかった
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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