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第58寿和丸はなぜ沈没したのか。日本海難史上最大のミステリー、著者に聞く

 ほとんど誰も記憶していない、昔の海難事故を扱った作品にもかかわらず、世代を問わず大きな話題を呼んでいるノンフィクションがある。昨年末に刊行された伊澤理江(いざわりえ)著の『黒い海 船は突然、深海へ消えた』。なぜこの事故を題材にしたのか、どんなストーリーなのか。著者の伊澤さんに話を聞いた。

第58寿和丸沈没事故とは

 最初に題材となった「第58寿和丸沈没事故」について簡単に説明しよう。

写真:運輸安全委員会の事故調査報告書より

 2008年6月、千葉県の房総沖350キロメートルの太平洋上で、福島の中型まき網漁船「第58寿和丸」は錨(いかり)を下ろして停泊中だった。その時、船体は突如“2度の衝撃”を受け、たったの1〜2分で転覆する。そして水深5000メートル以上の暗い海底へと沈んだ。  乗組員20人のうち、助かったのはわずか3人。犠牲者17人という大規模な海難事故だった。事故当時、近くには船団を組む仲間の船が何隻もいた。第58寿和丸が赤茶色の船底を晒してひっくり返っているのを確認した仲間の船は、真っ先に「当て逃げ」を疑う。

現場の海原に駆けつけるも

写真:運輸安全委員会の事故調査報告書より

 そして即座に周辺海域をレーダーで確認した。海は荒れておらず、転覆する理由が考えられなかったからだ。しかし、どれだけレーダーの対象範囲を広げても、仲間の漁船しか映らない。  仲間の船が駆けつけると、現場の海原は大量の燃料油で覆われていた。あたり一面を厚く覆う、真っ黒な油。燃料油は船底に積まれており、船体が破損しない限り、一気に大量に漏れ出ることはない。関係者の誰もが「船体破損」による沈没を疑った。船を沈めるほどの衝撃を与えた“何か“とは?――

事故後の現場海域。海上保安庁撮影。油の広がりが映っている/写真:運輸安全委員会の事故調査報告書より

 初夏の房総沖に氷山はない。浅瀬ではないから岩礁の可能性もない。  また船は航行しておらず、鯨などの大型海洋生物と衝突して船底に穴が空くことも考えにくい。休息していた船員たちの時間を一変させたものの正体とは一体何なのか。  あらゆる可能性を潰していった先に、「潜水艦による衝突」という仮説が残った。その謎に迫っていく過程は、実話でありながら、まるでミステリー小説を読んでいるようにスリリングだ。登場人物の息遣いまで聞こえてきそうな描写は、映画を見ているようでもある。「読み始めたら止まらない」「すごい本を読んだ」という声が後を絶たない。
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謎を追い3年、見えた“真実”
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黒い海 船は突然、深海へ消えた

日本の重大海難史上、まれに見る未解決事件

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