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「東京は上には上が無限にいる残酷な世界」タワマン文学の先駆者が描く“勝ち組”の苦悩

 読む者の心をザワつかせる“東京物語”をTwitter投稿で紡ぐ通称「タワマン文学」。麻布競馬場氏の『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)が好評を博すなど、その人気はネット内に留まらない。 この度、外山薫名義で『息が詰まるようなこの場所で』(KADOKAWA)を出版したタワマン文学の先駆者、窓際三等兵氏にインタビューを実施した(聞き手:DJあかい氏)。

窓際三頭兵(外山薫)氏・DJあかい氏

タワマン文学作家はYouTuberと同類?

DJあかい(以下、あかい):発売後、即重版とのことでおめでとうございます。今回、Twitterに発表していたような短編を集めたのではなく長編にしたのは何かこだわりが? 窓際三等兵(以下、窓際):完全に私の自意識です(笑)。最初にKADOKAWAさんから出版のお話を頂いたときは、「短編小説集とか出しませんか」って感じだったんですけど、それだと、正直売れないと思ったんですよ。 あかい:どういうことでしょうか。 窓際:「タワマン文学なんてネットで無料で読めるからこそ盛り上がってる」と思ってて。「わざわざ1500円も出して買うやついねーだろ」と当時考えていました。  なので「せっかくのお話なので、ちゃんとしたものを書きたいんですけど、いいですか?」って感じで、KADOKAWAさんのご好意に乗っかる形で……、今もしゃぶり尽くしてるんですけど(笑) あかい:あつかましい(笑)。 窓際:そうこうしてたら、同じくタワマン文学と呼ばれる作品を書いていた知人の麻布競馬場が昨年9月に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)を出して。それがパーンとヒットしたんですよ。 「やっべー、俺見る目なかった……」と。出版の話自体はふたりとも同じ時期にもらっててよく情報交換してたんですけど、あそこまで売れるとは思ってなかった(笑) あかい:想像以上に需要があったと。麻布競馬場さんはハンドルネームのまま本を出したわけですが、窓際さんは「外山薫」名義で出すんですね。 窓際:窓際三等兵として出したほうが絶対売れるのはわかってたんですけど、自分の自意識がムクムクと(笑)。  物書きとしての自分みたいなのがあって。これはもう、タワマンの階数や坪単価で競っている人たちを1ミリも笑えない、私のなかの自意識がタワマンだったようなものです。 あかい:「外山薫」というペンネームは何か由来が? 窓際:外山は東京都知事選に出てた革命家の「外山恒一」氏から、薫は『るろうに剣心』のヒロイン「神谷薫」から……。 あかい:意外なチョイス(笑)。 窓際:私が中学生のころ、ジャンプで『るろ剣』が連載されてて、薫が殺されてしまった!? という展開にものすごい衝撃を受けたんです。同時に自分のなかで歪んだ衝動のようなものを自覚して(笑)。  まあそれは冗談で、「薫」って名前は男の子でも女の子でも使えるすごくいい名前だと思ってて、できれば子供に付けたいくらいだったんですけど、奥さんに却下されて。それでペンネームで使ってやろうと。  KADOKAWAさんにも私の意思を尊重していたく形で承諾いただいて、ご好意をフルに使ってズブの素人が長編小説を出させてもらった感じです。  出版業界って、昔は賞レースがあって、そこに応募した一握りの人に書かせる感じだったけど、今はそれだけじゃ売れないので、ネットの話題先行というか、麻布競馬場も僕もそうだと思うんですけど。  ある程度部数が読めて、ネットで炎上しながら売るという汚いビジネスモデル(笑)。我々の扱いはYouTuberと同じネット芸人枠ですよ!
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取材で感じた守谷住民の「覚悟」
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