ニュース

想定外の人事?植田日銀総裁候補、注目すべき三つのポイント/倉山満

日銀人事は日本の経済・政治・安全保障につながる天王山

 私は日本で一番、日銀人事の重要性について訴えてきた自負がある。日本銀行は、日本経済のみならず政治や安全保障につながる天王山だと。
植田和男氏

2月24日の衆議院議院運営委員会で所信を述べる植田氏。「現在の日銀の金融政策は適切。緩和を継続する必要がある」と模範解答通りの答弁を繰り返したが、国民は監視を続けなければならない 写真/時事通信社

 その私からしても、今回の人事は想定の外だった。第一印象は、「よくもまあ、こんなこと考えつくな」だった。今は、「ならば、どうとでもなるな」だ。  現在の我が国の経済状況は、どのような状態か。デフレ完全脱却まで一歩手前だ。  デフレとは、モノの値段が下がり続ける状態。値段が安いのは良いことだと即断するなかれ。庶民には、働いても働いても給料が上がらない、生き地獄として、跳ね返ってくる。  では、どうすればよいか。二つの要諦がある。

デフレ完全脱却に必要な二つの要諦とは

 一つはインフレターゲット。安倍晋三首相と黒田東彦総裁の時代、政府と日銀が協定を結び「2年以内に物価上昇率を2%にする!」と公表。これは市場に対する強烈なメッセージになる。それまでの政府と日銀はデフレ不況政策を続けてきた。それを2年以内に景気回復させると宣言したのだから、安心して投資できる。  もう一つは、マネタリーベースの増加。要するに、お札を刷って市場に流す。デフレとは、商品が増加するのに比して、通貨供給量が追い付かず、モノの価値が下がり、お金が希少品と化す状態だ。だから、モノの値段が下がる。商品とは、人々が汗水流して働いた結晶である。食物や製品だけでなく、サービスも含まれる。だから、お札を刷って大量に市場に流せば、商品の方が希少品となり、モノの値段が上がる。  アベノミクスとは「物価上昇率が2%になるまでお札を刷る」との政策である。異次元の金融緩和とも呼ばれる。これを実行した最初の1年、景気は爆上げだった。しかし、消費増税8%が破壊した。その後に追加緩和、10%増税と蛇行を続けたが、緩やかでも何とか景気回復を続け、あと一歩まで来たところで、黒田総裁の任期切れとなった。景気回復前の消費増税など、訳の分からないことをやらなければ……。

いつまでも異常な政策を続ける訳にはいかない

 そもそも、金融緩和は2年でやめるつもりだったのだ。ところが増税の悪影響で大きな修正を迫られた。さらにYCC(イールドカーブコントロール。金利上昇を防ぐ手立て)やマイナス金利を導入、弥縫策(びほうさく)を続けてきた。  いつまでも異常な政策を続ける訳にはいかない。ポスト黒田に推される植田和男新総裁の任期に当たる、もう5年のどこかでやめないと、無理が来る。たとえば、既に銀行は低金利で悲鳴を上げている。「金融政策の正常化を」の声が上がるのは、その為だ。だが、何十年も不況などという異常な状況が終わっていないのに「正常化」など、今までの積み重ねをすべてぶち壊しかねない。  では、植田新総裁の、何に注目すればいいのか。三つある。
次のページ
植田新総裁で注目すべき三つのポイントとは?
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ