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1兆円を投入した「日の丸ジェット」開発中止。三菱重工が取り組むべき“次の一手”とは

 日本最大の総合重工業メーカー三菱重工業は2023年2月7日、民間航空機製造を行う開発子会社として設立した三菱航空機での三菱スペースジェット(MSJ)事業を中止すると発表した。戦後、日本初となる民間航空機YS-11の初飛行から60年以上が経過し、次なる航空機の開発を夢見たが、実現はできなかった。
三菱スペースジェット

2018年イギリスで飛んだANA塗装のMRJ90(当時、筆者撮影)

 2008年に三菱航空機が設立されて15年、三菱重工は苦渋の決断を下した。この期間で約500億円とも言われる公金を含む累計1兆円の巨費を投じた国や三菱重工を批判するメディアも多い。しかし、機体を5機製造し、アメリカでの飛行試験を続けたことを評価しつつ、製品にできなかった理由を探ると前向きな道も見えてきた。

三菱重工は失敗の理由4つを挙げたが

 三菱重工の示した開発中止の説明書には4つの理由が書かれていた(以下、説明原文ママ)。 =========== 1.技術面 開発長期化により一部見直し要。脱炭素対応等も必要。 2.製品面 海外パートナーより必要な協力の確保が困難と判断。 3.顧客面 北米でのスコープクローズが進まず、M90では市場に合致しない。 (筆者注:M90=90人乗り仕様) 4.資金面 型式証明(TC)の取得にはさらに巨額な資金を要し、事業性が見いだせない。 ===========

技術面、製品面でなぜ失敗したのか?

三菱スペースジェット

2017年パリで地上展示されたMRJ90型機(当時、筆者撮影)

 MSJの開発から進捗を追い、海外まで取材に行った筆者が、なぜ開発中止に至ったのかそれぞれ順を追って解説してみたい。 【1.技術面 開発長期化により一部見直し要。脱炭素対応等も必要】  プラット・アンド・ホイットニーのGTFエンジンの装着で他のどの航空機よりも燃費性能や環境性能が良いことで、当初他社機との優位性が高かったものの、開発延期により性能が陳腐になったばかりでなく、時代の流れで航空機に求められるものとしてさらなる環境性能が必要であることがわかったということだ。これは自己責任という他にはない。 【2.製品面 海外パートナーより必要な協力の確保が困難と判断】  ボンバルディア社のリージョナルジェット機シリーズのCRJ事業を買収したにもかかわらず必要な知見を得ることができなかったということと思える。これでは、開発できなかったのはボンバルディアに責任転嫁したといっても差し支えないだろう。
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顧客面、資金面での失敗の理由を読み解く
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