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円安と円高のどっちが、日本にとっていいの?元日銀副総裁がわかりやすく解説

 円安には「インバウンド需要」を高める効果もあります。アベノミクス期間の’13~’19年(特殊要因となるコロナとウクライナ危機の期間は除く)は’09~’12年と比べて、年平均22%の円安ですが、’13年以降、訪日外国人旅行消費額(インバウンド消費額)が急激に増え、’19年は4兆8135億円で’12年の4.4倍に増えました。  一方、日本人の外国旅行消費は’13~’19年に1兆~1.2兆円で低迷しました。それに対して、海外旅行と競合する国内旅行の消費額は、円高期の’11~’12年は減少傾向にありましたが、’13年からの円安期になって増加基調になり、’19年は’12年の13%増となっています。  このようなインバウンド消費の急増と日本人の国内旅行消費額の増加は、日本のホテルなどの旅行業者や飲食店及び、各種消費財販売店に従事する人々の所得と消費を大きく増加させたのです。  円安期と円高期の経済成長率も比較しておきましょう。1980~’91年の平均ドル円レートは183円で、平均実質成長率は4.3%でした。1992~’12年はそれぞれ107円と0.77%で、’13~’19年は30%以上の円安が進んで平均実質成長率は1%でした。この’13~’19年の平均1%成長のうち0.6%分は純輸出(輸出から輸入を引いた金額)の増加が寄与しています。  つまり、円高期よりも、円安期のほうが日本の経済成長率は高く、その成長を輸出が後押ししているのです。  世の中には「円安を放置したら貿易赤字が増えて日本経済は破滅する」と煽る経済学者もいますが、その主張は現実を見誤っています。
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岩田の“異次元”処方せん
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東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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