日本の国力が低下したから、円安が進んだって本当?元日銀副総裁がわかりやすく解説
その間の1995年4月にはドル円が変動相場制採用以来の最高値79.75円をつけました。当時は、バブル崩壊後のマイナス成長からようやく若干のプラス成長に転換した時期で、国力が強くなったと言えるような状況ではありません。
この超円高の原因に関する有力な説は、その当時1週間でメキシコペソの価値が半減した「メキシコ通貨危機」です。日本の投資家や輸出企業がリスク回避のため、ドルを売って円を買う動きが活発化したのです。
また、’11年の東日本大震災から7か月後にはドル円が史上最高値を更新して75.32円に到達しましたが、この原因は多額の保険金の支払いが予想される保険会社や復旧のための資金が必要な大企業がドル建て資産を売却して円資産に変えるという思惑が広がったことでした。
つまり、過去50年を振り返っても、国力で日本円の価値が決まった時代はないのです。「円高=国力が強い」とする主張は“トンデモ理論”にすぎません。
ドル円レートを決定する要因は、①日米金利差、②日米予想インフレ率差、③地政学的リスクなどが考えられます。昨年の円安局面は米国がインフレを抑え込もうと急速に利上げし、米日金利差が拡大したことが原因でした。
そもそも、国力なるものはある日突然、増大したり、突如として低下したりするものではありません。その点からも為替を変動させる材料となりえないのは明らかです。
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数
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