ですがショウさんの職業が紗枝子さんを大きく悩ますことに……。 「ショウ君は不動産業って言っていて、最後まで詳しくは教えてくれなかったんですけど、たぶん“反社”みたいな感じだったんだと思います。ショウ君が住んでいたマンションは自宅兼事務所みたいになっていて、部下の若い従業員が何人か出入りしてたんです。もしかすると何かの詐欺グループとかだったのかも……。でも当時の私は、そういうワルで秘密を抱えているところにもキュンキュンしちゃってたんです（苦笑）」 　お嬢様育ちで公務員の旦那さんと結婚するという“真面目”一直線のレールを走り続けてきた彼女。そのレールを踏み外したくなる衝動に駆られていたのかもしれません。 　そしてショウさんのある行動にも悩まされていたそうです。 「ショウ君はコンドームを絶対に着けないし、しかも『恋人同士ならいいだろ』って避妊も一切しないんですよね。私はショウ君に嫌われたくなかったから、拒否できずに受け入れちゃってました。さすがにショウ君の子どもを妊娠しちゃったらまずいのでピルを飲むようにして……ただ、実はその頃、夫が『早く子どもがほしいね』と言っていて、妊活中でもあったんです。だから夫と子づくりをがんばっているフリをしながら、裏で隠れてピルを飲み続ける生活で……。罪悪感で精神的に限界が近づいてました」 　そんなふうに苦悩し続けていたある日、紗枝子さんのなかで一気に目が覚める出来事が。 「ショウ君は私にはいつも優しい口調なんですけど、たまに部下の従業員には、巻き舌で怒声を浴びせて“詰める”ようなことをしていて。その日は新人の従業員が大きなミスをやらかしてしまったらしく、『今日中になんとかせえよ、殺すぞ』と詰めているのを見てしまったんです。その瞬間、“ああ、この人は私と違う世界の人だった”っていうのを理解したというか、急に思い出したというか……。その日限りでお別れしました」