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他人の失敗には“情報としての価値”がある。風俗店で窮地に陥ったおっさんの機転

はたしてコンドーム作戦の成否は

「イメージとしては間違って指サックをしたまま来てしまった男よ」  なんだよ、指サックしたまま来てしまった男って。  さすがにコンドームは指に装着するようにできていないのでブカブカすぎて指サックにすら見えなかった。なんとか根元を縛って装着したもの、シワシワのゴム状の何かを指に装着した男がそこにいた。 「え、どうしたの? それ?」  この店は廊下で女の子と対面する店らしいのだけど、対面するや否や、さっそく、指の異物を指摘された。 「あ、間違って指サックしたまま来ちゃったな、仕事で使うんだよね。裁縫系の仕事だから」  高槻さんはそう言い訳したが、とても指サックには見えない。 「どうみてもコンドームじゃん。なんで指に着けているの?」  女の子から鋭い指摘が飛ぶ。容赦なしだ。 「あれれー、指サックだと思っていたのに間違ってコンドームつけちゃった」  もう何を言っているんだかが自分でも分かっていないんだと思う。  結局、指からの出血がばれ、不衛生と言うことでプレイは中止になったどころか、その先の出禁までになったらしい。こうして、裁縫系の仕事をしているのに指サックとコンドームを間違えて装着し、そのまま風俗店にやってきた、なぜか指から出血している、という訳の分からない男の存在だけが残った。 「これが俺の失敗を克服した経験。あの機転は我ながら見事だったな」 「克服してないじゃないですか。出禁になっとるし」  もちろん、こういう主張ばかりしているから高槻さんは面接に落ちる。落ち続ける。受かっても長続きしない。面接としてはダメダメだけど、僕らにとっては有益だ。  僕らは他人の成功例より失敗から学ぶべきことが多い。このエピソードからも、風俗店に行くときにはきっちりと爪を切る、それはエチケットだ、という教訓が得られるのだ。もちろん、それは高槻さん自身にとっても教訓となる。僕らも高槻さんも同じミスを繰り返さなくなる。失敗とはそのように社会に再利用されていくべきなのだ。 「いやあ、コンドームがブカブカすぎたからね、それを教訓に、こんどは財布に忍ばせるコンドームをSSサイズにしたよ。これで指サックに見えるよ」  高槻さんは、同じミスをまた繰り返すかもしれない。 「じゃあな、ありがと。面接、頑張るよ!終わったら風俗に行く!」  笑顔で手を振る高槻さん、その爪はけっこう伸びていたので、たぶん繰り返すのだろうと、雑踏に消えていく後姿を見送った。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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