更新日:2023年10月05日 14:12
エンタメ

75歳、認知症の蛭子能収が「最後の展覧会」で表現した“人生の儚さと幸福”

尊い気持ちにさせられた老婆の背中

蛭子能収氏絵画展

作品名「ヘンなおじさん」

 彼女が蛭子さんの抽象画を見つめる後ろ姿を見ていたら、なんだか尊い気持ちになって、背筋が伸びた。年齢から考えて、彼女はきっとテレビを見て蛭子能収のファンになったのだろう。これだけの熱意があるのだから、長い間の蛭子ファンなのだと思う。  彼女も老年期を迎え、体の不自由を抱え、同じく老人となって、認知症を発症したという蛭子さんに会わずにはいられなかったのではないか。現在の蛭子さんの、生命の放射や精神の有り様を、絵画を通して確かめたかったのではないだろうか。そして長い間、遠くから見つめていたファンとしての矜持で、蛭子さんの現在の姿をひと目見ただけで、さらりと帰っていったのだと思う。

彼女の脳裏に浮かんだ蛭子さんの姿とは

 蛭子さんが、彼女に与えてきた人生の彩りと、それに感謝をしている老婆の気持ちを思うと、根本さんが蛭子さんの絵画について語った言葉と同様に、人生の儚さと幸福について、自然に考えが及んだ。  老婆は、蛭子さんのどんなところが好きだったのだろう。彼女の脳裏に浮かんだ蛭子さんの姿は、SMの猿轡をして熱湯風呂につかっているところか? 宮沢りえの父親役として、セリフを棒読みしているところか? 地方の名物を無視して、注文したカレーライスをほおばっている姿なのか? それとも画家・蛭子能収なのだろうか?
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina
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