更新日:2023年10月13日 15:23
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“第三のビール値上げ”は「単価を上げる」絶好の機会に…大手メーカー3社の皮算用を読み解く

飽和市場に殴り込みをかけた「スプリングバレー」

 その状況を打開すべく、2021年3月に世に送り出したのがクラフトビール「スプリングバレー」でした。4月上旬には年間販売目標160万ケースの2割に当たる30万ケースを出荷。好調な売れ行きにキリンは計画の3割の増産を早々と決めています。  もともとクラフトビールはビールファンの人気を獲得しており、2020年はキリンのクラフトビール缶は前年比3割増となるなど、成長性のある領域でした。コロナ禍を経て「家で贅沢な時間を過ごす」という消費動向を捉えた上、ビールの税率が低くなる絶妙なタイミングでヒット商品を生み出したのです。  現在でも、スプリングバレーの勢いは衰えていません。販売状況を見ると、2023年8月は前年同月比で1.6倍も売れています。  ただ、キリンは2023年12月期上半期の決算説明にてスプリングバレーの販売数量が前年比で2割増加したことを公表しているものの、本麒麟の状況は明かしていません。ここでも今後はクラフトビールを軸に会社を成長させようという、戦略の転換が見て取れます。

アサヒにとって追い風となるビールの税率引き下げ

 アサヒは酒類事業の売上収益の53%をビールが占めています。ビールの税率が下がるのは大いに歓迎すべきであり、コロナ禍で落ち込んだ業績を回復させるのに一役買うのは間違いないでしょう。  ただし、アサヒのビールの販売数量のうち、25%は飲食店向けの業務用酒販が占めています。飲食店の生ビールが、税率の改正で安くなる可能性は低いでしょう。仮に数十円安くなったところで、来店客が増えるわけでもありません。  2022年度の酒類事業の売上収益は、コロナ前の2019年度と比べると、いまだ1000億円もの差が生じています。  とはいえ、インバウンドの盛り上がりや宴会需要の回復で飲食店の市況が好転することに加えて、消費者の缶ビール熱が税率の改正効果で高まれば、アサヒの業績は大いに回復する可能性があります。現在、その瀬戸際に立たされていると言えるでしょう。
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サントリー生ビールは金麦依存を救済するか?
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フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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