“第三のビール値上げ”は「単価を上げる」絶好の機会に…大手メーカー3社の皮算用を読み解く
中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
2023年10月1日からビール系飲料の税率が変わりました。長らく庶民の味方だった第三のビールは9円あまり上昇。ビールは6円あまり下がります。実は税率の改正はこれで終わりではありません。2026年10月には第三のビール、発泡酒の税率が上がり、ビールが下がって350ミリリットル当たり54.25円に一本化されます。
税率の一本化は、ビール会社の販売戦略に大転換を促しています。
国税庁の「酒レポート」によると、2020年のビールの出荷量は183万キロリットル。1994年は700万キロリットルを超えていました。ビールの出荷量は全盛期の3割以下の水準まで縮小しています。
その穴を埋めるように登場したのが、発泡酒と第三のビールでした。2020年の第三のビールを含むリキュール類の出荷量は265万キロリットルで、ビールの1.5倍に上る数字です。
ビール会社各社は、消費者に安くビールに似た商品を届けようと、税率の低い発泡酒や第三のビールの開発に邁進しました。しかし、開発力を高めてビールに似た商品を生み出せば、それだけ主力となるビールの販売量が落ち込むという諸刃の刃でもありました。
税率の改正は、高単価であるビールの販売量を伸ばす絶好の機会になります。この好機を巧みに捉えている会社があります。キリンホールディングスです。
キリンとアサヒの酒類事業の売上収益は近いところにあります。2022年度はキリンが6635億円。アサヒが7862億円でした。
アサヒはコロナ禍の2020年度から2021年度にかけて2019年比で15~20%程度減収となりました。しかし、キリンはほとんど変わらず安定的に推移しています。
アサヒはスーパードライへの依存度が高く、飲食店への供給量も多かったため、大幅な減収に見舞われました。
一方のキリンの業績を支えていたのが第三のビール「本麒麟」でした。同商品は2018年3月に発売されています。2018年のキリンの第三のビール出荷量は70万キロリットルで、2017年比で3割も増加しています。一般家庭向けの第三のビールの成功で、外食市況急変の影響をほとんど受けず、業績は安定していたのです。
キリンの第三のビールは2020年に80万キロリットルとなり、キリンビール全体の半分程度を占めるまでになりました。ただし、本麒麟が主力商品なのであれば、税率の改正は大打撃になります。
ビールの市場を奪っていった第三のビール
キリンの売上がコロナ禍でも安定していた理由
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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